美山かやぶきの里美山かやぶきの里

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「森の京都」に残る、日本の原風景

2023.3.12

南丹市美山町の「かやぶきの里」と京丹波町の「丹波ワイン」。自然と共存する「森の京都」を旅する

©美山DMO


京都府には、かつて「丹波国(たんばのくに)」と称されていた地域がある。現在の亀岡市、南丹市、京丹波町などがそれにあたり、いずれも緑豊かな山地や美しい川など、手つかずの自然が残るエリアだ。こうした豊かな自然とともに暮らす人々が、守り育んできたもののひとつが、「かやぶきの里」の美しい景観である。この「かやぶきの里」をはじめ、京都の食文化に合うワイン造りを目指している「丹波ワイン」など、「森の京都」として近年脚光を浴びる“丹波の国”の注目スポットを巡った。



美山かやぶきの里
山の麓に抱かれるように点在する、茅葺の民家

 

京都駅から車で約1時間20分。なだらかな稜線を描く山々の麓に抱かれるように、茅葺(かやぶき)の民家が点在する。「美山かやぶきの里」だ。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたこの集落に建つ茅葺の民家は全部で39棟。江戸時代中期から明治時代初期にかけて建てられたものが多く、正式には「北山型民家入母屋造り」と呼ばれている。



かやぶきの里 かやぶきの里

集落内への車の乗り入れは住民以外禁止。のんびりと散策することができる。主屋の屋根は、すべて近隣を流れる由良川の流れと平行に建てられている。©美山DMO



集落内を歩く。原色は、郵便ポストとお地蔵さんの前掛けの赤のみ。茅葺の屋根をはじめ、建物や隣に建つ小屋の壁まですべてが、茶系色のグラデーションをなし、そこに障子の白が際立つ。訪れる誰をも安心させる柔らかな空気。それはこれらの茅葺古民家に、今も人が実際に暮らしているという生活感が醸し出す空気だ。



通気性や断熱性に優れた茅葺の屋根は「呼吸する屋根」

「かやぶきの里」で民宿を営む中野忠樹さんに、案内役をしていただいた。

 

「茅葺の家は、夏は涼しく冬は暖かく、通気性や断熱性にも優れ、『呼吸する屋根』と言われています。屋根の吹き替えはおよそ20年に一度。かつては村の人が総出で作業をしたものですが、だんだん人も少なくなり、最近では専門の職人にお願いするようになりました」



かやぶきの屋根部分 かやぶきの屋根部分

屋根の上の木組みは「千木(ちぎ)」と呼ばれ、普通の民家では5本組で、庄屋の家屋のみが7本組。家々の家紋が、透かし彫で浮かび上がる。



村内に商業施設を設けることを極力避けてきた「かやぶきの里」では、カフェや民宿は数えるほど。そのために、昔からのたたずまいが、村全体に保たれている。村の周囲は水田とそば畑。春には田植えが行われ、9月にはそばの花が咲く。こうした四季折々の変化を、連なる茅葺屋根は見守り続けてきた。かつて日本のいたる場所に存在していた日本の原風景が、ここには確実に残されている。



かやぶきの里の田植え かやぶきの里の田植え

毎年5月に行われる「お田植祭」。5月には、消火施設の点検のために、消火栓からの一斉放水も行われ、その光景を目的に多くの人が訪れる。©美山DMO

京都美山ナビ

「かやぶきの里」を中心に観光するための情報サイト。かやぶきの里内をプライベートガイドと歩くツアー(要予約)などもある。



美山FUTON&Breakfast
1日1組限定。茅葺の民家に泊まる

 

ベッド& ブレックファーストならぬ、フトン&ブレックファーストの一棟貸の宿が「かやぶきの里」近くにある。茅葺民家一棟を1日1組限定で貸し切ることができる、朝食付きの宿「美山FUTON&Breakfast」である。点在する宿泊施設は現在5棟。昔ながらの佇まいそのままの古民家から、広い庭にウッドテラスを設けたモダンな雰囲気の棟まで、趣や収容人数もさまざまだ。

 

 



国の登録無形文化財にも指定されている「F&B本館」。露地やお茶室まで備えたかつての豪農の館に泊まる喜び。 国の登録無形文化財にも指定されている「F&B本館」。露地やお茶室まで備えたかつての豪農の館に泊まる喜び。

国の登録無形文化財にも指定されている「美山FUTON&Breakfast 本館」。露地やお茶室まで備えたかつての豪農の館に泊まる喜び。©美山FUTON&Breakfast



なかでも、「美山FUTON&Breakfast 本館」とネーミングされた建物は、国の有形登録文化財にも指定された、築150年を超えた茅葺屋根の建物だ。土間を通り抜けると、そこは広い板の間で、中央には囲炉裏が切られ、火を熾すこともできる。畳の部屋は主に8畳と4畳半の2つ、襖で仕切れば3部屋にもなる。



大きな囲炉裏が切られている板の間。食後はこの囲炉裏を囲んで寛ぎのひとときを過ごす。 大きな囲炉裏が切られている板の間。食後はこの囲炉裏を囲んで寛ぎのひとときを過ごす。

大きな囲炉裏が切られている板の間。食後はこの囲炉裏を囲んで寛ぎのひとときを過ごす。

 



水回りの機器やキッチンツールなどは、最新の設備が備えられ、自炊も不自由なく行うことができる。 水回りの機器やキッチンツールなどは、最新の設備が備えられ、自炊も不自由なく行うことができる。

水回りの機器やキッチンツールなどは、最新の設備が備えられ、自炊も不自由なく行うことができる。



茅葺宿で自由に楽しむ夕食
食材手配や出張調理もできる

 

屋根を葺いている萱そのものと、それを支える梁がむき出しになっている2階は、素朴ながらも独特の雰囲気で、ここが茅葺民家であることをまざまざと実感させてくれる空間だ。

 

 

8名もしくはそれ以上も場合によっては宿泊できる余裕のある広さが魅力。キッチンの水回りや調理器具は最新のものが完備され、食器類もふんだんに備わっているので自炊も可能だ。バーベキューやぼたん鍋の食材の予約手配ができるのもいい。

 

 

また、よせ鍋やぼたん鍋を囲炉裏端で準備してくれる出張サービスもあり、せっかくだから囲炉裏を囲んでみたいという夢も叶う。



萱と支える梁がむき出しになった2階。畳スペースが設けられているので、2階での宿泊も可能。 萱と支える梁がむき出しになった2階。畳スペースが設けられているので、2階での宿泊も可能。

萱と支える梁がむき出しになった2階。畳スペースが設けられているので、2階での宿泊も可能。



建物の周囲は、少し離れて建つ民家と水田のみ。囲炉裏脇に座り、じっと耳を澄ませていると、茅葺の屋根の息遣いが感じられそうな、そんな気配さえしてくる。「かやぶきの里」からはクルマで15分ほどの距離。昔ながらの風景が残る美山を堪能するなら、こんな宿で一夜を過ごしてみたい。



美山EISA 美山EISA

茅葺の浴室棟が目印の美山EISA。古民家の中にはワインセラー、生ビールサーバーも完備(共に有料)。ペットも一緒に宿泊できる。©美山FUTON&Breakfast

 

美山FUTON&Breakfast

チェックインセンター 京都府南丹市美山町島狐岩52



きぐすりや
家族経営の小さな宿で味わう、ジビエ会席とぼたん鍋

 

「きぐすりや」。そんな一風変わった名前の料理旅館が、美山地区で暖簾を掲げている。創業は大正8年。明治時代には薬商を営み、「生薬屋」としていた屋号を、そのまま受け継いでの料理旅館である。



きぐすりや きぐすりや

薬商を営んでいた明治時代のたたずまいを残す「きぐすりや」。建物の反対側には、京都と若狭を結ぶ鯖街道の面影を伝える小道が現存する。



鹿や猪の肉を使った、新たな発想の「ジビエ会席」

 

家族経営の小さな宿である「きぐすりや」は、美山の旬の食材を活かした料理で知られ、そのアットホームさも相まって、京都のみならず多くの人が全国から足を運ぶ。夏の鮎尽くし、冬のぼたん鍋、通年の地鶏料理……。こうした昔ながらの料理に加え、最近注目を集めているのがジビエ会席だ。



鹿肉のカツレツ。鹿の肉は高たんぱく、低カロリーで低脂肪と体にもよい。臭みもなく柔らかい。 鹿肉のカツレツ。鹿の肉は高たんぱく、低カロリーで低脂肪と体にもよい。臭みもなく柔らかい。

鹿肉のカツレツ。鹿の肉は高たんぱく、低カロリーで低脂肪と体にもよい。臭みもなく柔らかい。



鹿肉のワイン煮。すねの部分を赤ワインでじっくり煮ると、滋味豊かな一品となる。 鹿肉のワイン煮。すねの部分を赤ワインでじっくり煮ると、滋味豊かな一品となる。

鹿肉のワイン煮。すねの部分を赤ワインでじっくり煮ると、滋味豊かな一品となる。

 

 

 



サラダには猪のベーコンをトッピング。右上は鹿肉のコロッケ。鹿肉を混ぜ込んだ炊き込みご飯には丹波の黒豆も添えて。 サラダには猪のベーコンをトッピング。右上は鹿肉のコロッケ。鹿肉を混ぜ込んだ炊き込みご飯には丹波の黒豆も添えて。

サラダには猪のベーコンをトッピング。右上は鹿肉のコロッケ。鹿肉を混ぜ込んだ炊き込みご飯には丹波の黒豆も添えて。



鍋や煮物など、今までの限られた調理法ではなく、フランス料理の「ジビエ」の発想を取り入れたとき、時として取り扱いに苦慮していた鹿や猪の肉が、豊かな食材へと新たな価値を纏うこととなった。鹿肉は、カツレツ、ワイン煮、コロッケに、猪はベーコンにしてサラダのトッピングに……。専門のフランス料理シェフを呼んで、美山地区の料理人が勉強会を重ねた結果、まさに「地産地消」のスペシャリテが誕生した。

 

もちろん、昔ながらのぼたん鍋や由良川の清流で育った鮎も美味。今年の春には、明治13年に建築された古民家を利用した別館の改修工事も完了する。茅葺屋根の下で味わう、丹精込められた料理は格別。至福の時間が流れる。

 



ぼたん鍋 ぼたん鍋

昔ながらのぼたん鍋。山のどんぐりをふんだんに食べて育った猪の肉は甘く、脂身もクセがなくあっさりとしている。味噌仕立てのスープがとても合う。

きぐすりや
京都府南丹市美山町鶴ケ岡今安8−1



京都丹波ワイン
日本料理に合うワインを目指し、丹波の地で創業したワイナリー

 

京丹波町は、「かやぶきの里」や「きぐすりや」のある南丹市美山地区から西の方角に位置する。京丹波の地に18,000坪もの広大な葡萄畑を持つワイナリーが「丹波ワイン」だ。栄養価に富んだ土壌が広がり、夏場の昼夜の寒暖差が激しく、葡萄の栽培にも適したこの地域に、ワイナリーが誕生したのは1979年。



丹波ワインのぶどう畑 丹波ワインのぶどう畑

18,000坪もの広大な葡萄畑では、除草剤を一切使用せず、葡萄を搾汁した後の皮や種を有機肥料として還元する自然循環農法が行われている。©丹波ワイン

 



以来、日本料理に合うワイン造りを目指し、現在では京都府をはじめとして、日本各地の料亭やレストランなどで、その製品が幅広く愛されるワイナリーとなった。2人の女性醸造家を中心に作られるワインは、現在では40銘柄以上に及ぶ。

 

 

緩やかな起伏の里山に囲まれたワイナリーの風景は、どことなくフランスの田舎を思わせ、そこにカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ピノ・ノワールをはじめ、試験栽培を含めて50品種前後の葡萄が作付けされている。収穫は8月中旬から10月下旬ころまで。また、葡萄の葉が濃い緑色となる5月下旬から収穫を終えるころまでが、葡萄畑は最も美しい景観を作る。



葡萄の糖度と酸度などを慎重に見極めながら。丁寧に一房ずつ手摘みで収穫していく。 葡萄の糖度と酸度などを慎重に見極めながら。丁寧に一房ずつ手摘みで収穫していく。

葡萄の糖度と酸度などを慎重に見極めながら。丁寧に一房ずつ手摘みで収穫していく。©丹波ワイン



樽熟成 樽熟成

セラーの中で樽熟成されるワイン。白ワインで半年、赤ワインで1年から2年程度の樽熟成を経てリリースされる。最長では5年ほどの歳月を必用とするものも。



試飲やバーベキュー。ワイナリーで過ごす充実の一日

 

ワイナリー内に設けられたレストラン「duTamba(デュタンバ)」は、葡萄の房が窓から良く見える高さにテーブルが設置してあるので、食事をしながら畑の風景を存分に眺めることができる。



丹波ワイン 丹波ワイン

ワイナリーでは試飲も可能。人気が高い3銘柄は、右からオレンジワインとも呼ばれる「醸し発酵デラウェア」、酸化防止剤無添加の辛口の白の発泡性「てぐみ」、フルボディタイプの「京都丹波タナ」は京都丹波産のタナ種葡萄を100%使用したシグネチャー的な銘柄。



また、4月から11月までは畑の中でバーベキューを楽しむプランも実施。ワイナリー限定のワインやフードを販売するショップでは試飲も可能だ。農園とワイナリー見学も適宜実施されているので、充実した1日を過ごすことができる。

 



ワイナリー限定のワインをはじめ、丹波地方の特産物やワイングッズなど、ショップの品揃えも充実。 ワイナリー限定のワインをはじめ、丹波地方の特産物やワイングッズなど、ショップの品揃えも充実。

ワイナリー限定のワインをはじめ、丹波地方の特産物やワイングッズなど、ショップの品揃えも充実。

丹波ワイン
京都府船井郡京丹波町豊田鳥居野96



豊かな自然が残る、「森の京都」と称されるエリア。その豊かな自然との共存が、茅葺の民家や、ジビエ料理、そしてワイナリーと、それぞれ独自の文化や産物を育んできた。ドライブに最適の季節、「森の京都」を巡り、自然との共存を肌で感じてみるのはいかが。

 



Text by Masao Sakurai (Office Clover)
Photography by Makoto Itoh

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