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まだ見ぬ京都のフォトスポット(後編)

2022.5.30

京都の美景 見事な建築・庭・意匠に心奪われて

京都には何度も足を運んだと言う人も、まだ知らない美しい風景がたくさんある。そんな知る人ぞ知る美景スポットを前後編で4箇所ご紹介する。前編では日本庭園の美しい「松花堂庭園・美術館」、そして見事な竹林の「竹の径」を紹介した。後編では建築・庭園・意匠、その全てが心に刻まれる空間が体感できる二箇所である。私たちの感性を刺激する、忘れられない風景がとの出合いを美しい写真に収めて、心に、記憶に、長く残る旅に出よう。

 

 


庭園と建築物の絶妙なバランスがシャッターチャンス
アサヒビール大山崎山荘美術館(京都府大山崎町)



イギリスのチューダーゴシック様式を基本とする、実業家の加賀正太郎の別荘であった建物。 Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART イギリスのチューダーゴシック様式を基本とする、実業家の加賀正太郎の別荘であった建物。 Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART

イギリスのチューダーゴシック様式を基本とする、実業家の加賀正太郎の別荘であった建物。

 

Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART



天王山の中腹にオレンジ色の屋根の洋館が見えてくる。ここは大正から昭和初期に活躍した実業家・加賀正太郎の別荘であり、現在は「アサヒビール大山崎山荘美術館」となっている。その庭園や建築物、意匠など、その全てが美しく、思わず圧倒されてしまう。これらのすべてを加賀自身が設計したと言うからさらに驚く。証券業をはじめとして多方面で活躍した加賀は、若い頃にヨーロッパへ渡って、大英博物館やキューガーデンを見学し、日本人で初めてアルプス山脈ユングラフ登頂を果たしたと言う経歴を持つ人物である。



アサヒビール大山崎山荘美術館。本館から、建築家安藤忠雄による「夢の箱」(山手館)へ通じる通路を見る。 アサヒビール大山崎山荘美術館。本館から、建築家安藤忠雄による「夢の箱」(山手館)へ通じる通路を見る。

アサヒビール大山崎美術館。本館から、建築家安藤忠雄による「夢の箱」(山手館)へ通じる通路を見る。



その経験や、そこで見た景色がこの大山崎山荘の至る所に投影されていることが伺える。現代人の目で見ても、当時ここまでの洋館は珍しかったであろうし、加賀がこの建物や庭に多くの財を投じていることは間違いない。

 

この大邸宅が美術館として今日まで美しく存在することには、当時の加賀の交友関係に起因する。加賀はニッカウヰスキー創業者である竹鶴政孝とも親交があったことから、ニッカウヰスキーの株主でもあった。晩年、親交のあったアサヒビールの初代社長である山本爲三郎に同社の株を託した。その縁もあって解体が検討されていた大山崎山荘を、京都府や大山崎町から要請を受けたアサヒビールが、1996年春に「アサヒビール大山崎山荘美術館」として復元したのだ。



美術館内の至る所に見られる美しい意匠に目を奪われる。 美術館内の至る所に見られる美しい意匠に目を奪われる。

美術館内の至る所に見られる美しい意匠に目を奪われる。
*館内での撮影不可。



大山崎山荘を美術館へと再生するに当たって、建築家・安藤忠雄設計による新棟「地中の宝石箱」(地中館)、2012年には「夢の箱」(山手館)が竣工された。この新旧の感性が融合されたことで、より相互の魅力が引き立て合い新たな息吹を生んでいるようだ。


安藤忠雄が設計した「地中の宝石箱」(地中館)。ここではモネの『睡蓮』の連作を展示。 Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART 安藤忠雄が設計した「地中の宝石箱」(地中館)。ここではモネの『睡蓮』の連作を展示。 Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART

安藤忠雄が設計した「地中の宝石箱」(地中館)。ここではモネの『睡蓮』の連作を展示。

Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART



アサヒビール大山崎山荘美術館のコレクションはアサヒビール初代社長の山本爲三郎のコレクションが中核を担っている。山本は芸術に造詣が非常に深く、民藝運動を支援していた。河井寬次郎や濱田庄司、バーナード・リーチ、芹沢銈介など民芸運動ゆかりの素晴らしい工芸作品を見学できるのは嬉しい。

また、美術館2階には喫茶室があり、テラスからは木津・宇治・桂川の三川を見下ろす絶景が広がっている。実は加賀は欧州へ出かけた際、イギリスのウィンザー城から眺めたテムズ川の流れの記憶から、この三川が流れる大山崎の地を選んだと言う。加賀がこだわり抜いて作り出したこの空間は唯一無二である。ぜひ一度足を伸ばして欲しい。


2階の喫茶室のテラスからは木津・宇治・桂の三川の雄大な景色が楽しめる。 Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART 2階の喫茶室のテラスからは木津・宇治・桂の三川の雄大な景色が楽しめる。 Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART

2階の喫茶室のテラスからは木津・宇治・桂の三川の雄大な景色が楽しめる。

Photo by ©︎ASAHI BEER OYAMAZAKI VILLA MUSEUM OF ART



アサヒビール大山崎山荘美術館

 

京都府乙訓郡大山崎町銭原5−3
開館時間:10時〜17時(入館は16時30分まで)
定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)年末年始・臨時休館日

 

 

 



時空を超えて、古き良き日本の暮らしが其処此処に
おばんざいとお酒 なかの邸(京都府長岡京市)



なかの邸外観 なかの邸外観

趣のある外観に風格を感じる。



京都の東寺口から兵庫県西宮市に通じる旧西国街道沿いに、風情漂う町屋『国登録有形文化財 中野家住宅』を再生した「おばんざいとお酒 なかの邸」がある。かつては酒屋を営み、政財界でも活躍した中野家は江戸末期に建てられた主屋と、1951年に数奇屋大工の名工であった北村傳兵衞による茶室と主屋の増築部分がある、歴史を感じさせる風情ある佇まいである。行き交う人々は思わず足を止めて中を伺うほど目を惹く建物だからこそ、時空を超えた体験もできるはずだ。

 

2014年に長岡京市に寄贈されたと言う中野家住宅は、その貴重な文化財を活用するために事業プロポーザルを実施し、「おばんざいとお酒 なかの邸」がオープンしたのは2019年のこと。店内はかつての意匠が感じられる広い土間、玄関座敷があり、さらに奥座敷へとつながっていく。大きい窓からは手入れの行き届いた美しい日本庭園が見え、それはため息が漏れるほど美しい。かつての日本人の暮らしを感じながらいただくお食事は格別であり、きっと忘れられないひとときになるだろう。



お昼の松花堂弁当1500円(税抜)は完全予約制。 お昼の松花堂弁当1500円(税抜)は完全予約制。

お昼の松花堂弁当1500円(税抜)は完全予約制。

なかの邸を運営するのは、障がい者支援団体「一般社団法人暮らしランプ」だ。障がい者がそれぞれの状況に合わせて働けるように昼と夜の営業を行っている。作業は支援スタッフの指導の下、自分たちができることに取り組めるように、できるだけ作業工程をシンプルにしていると言う。そしてお料理はと言えば、文句なく美味しい。


お昼の松花堂弁当セットのスイーツも絶品。 お昼の松花堂弁当セットのスイーツも絶品。

お昼の松花堂弁当セットのスイーツも絶品。


ここではスタッフが丁寧に野菜の下ごしらえを行い、素材ごとに分けて火を通したり、きちんと出汁を取るなど、とにかく忠実に丁寧な仕事を繰り返している。だからこそ、優しい味わいが生まれ、素材が生きているのだ。そして生き生きと働く彼らの姿には元気をもらえる。
またここでは格別なコーヒーがいただけることも伝えたい。店内には焙煎所があり、ラオス・東ティモール・雲南・ミャンマーのコーヒーを味わえる。これらの豆やドリップコーヒーなどは店内やオンラインショップでも購入ができる。


なかの邸焙煎室 なかの邸焙煎室

焙煎室 焙煎室

入り口を入ると左手に食事処、右手には焙煎室がある。


おばんざいとお酒 なかの邸

京都府長岡京市調子1丁目6−35 中野家住宅
営業時間:11時30分〜15時 18時〜22時
現在、利用は前日15時までに予約が必要。
定休日:日曜・月曜

 

今回は知る人ぞ知る4箇所の京都の美景スポットを紹介した。いつもの京都とはひと味違う京都を探しに旅へ出てはいかがだろうか。

→ まだ見ぬ京都のフォトスポット(前編)はこちら

 

Photography by Natsuko Okada

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