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“LIGHT OF FLOWERS ハナの光”を紐解く

2021.4.30

花々の姿をジュエリーへと映すヴァン クリーフ&アーペルの美学の系譜

写真左上から時計周りに トゥーフラワーズ ブローチ プラチナ、イエローゴールド、ルビー、ダイヤモンド 1937年/フラワー ブローチ プラチナ、ホワイトゴールド、サファイア、ダイヤモンド 1938年/フラワー クリップ プラチナ、イエローゴールド、イエロー&ホワイトダイヤモンド  1939年 すべてパトリモニー コレクション

 

繊細さや逞しさ、華麗さや儚さ、さまざまに表情を変える草花を眺めて、人は感動や癒しを得る。ある時は想像を膨らませアートを生み出す。ヴァン クリーフ&アーペルの期間限定エキシビション「LIGHT OF FLOWERS ハナの光」が4月22日から5月9日まで、代官山T-SITE GARDEN GALLERYで開催されている。

 

オープン前日、取材という理由で幸運にも完成したばかりのインスタレーションを目にすることができた。ギャラリーの中は、背丈の異なる様々な種類の植物が、光に揺らめく水面に生けられ、土壁の柔らかな壁面にジュエリーのショーケースが設置されている。花と光と水が調和したその空間には、静寂さが漂っていた。

 

代官山T-SITE GARDEN GALLERYはその昔、代官屋敷が連なっていた地域とも言い伝えられ、その趣を生かした商業施設は都心に近い割には緑が濃く、花々をテーマにした今回のエキシビションがしっくりと溶け込んでいる。ヴァン クリーフ&アーペルは、ジュエリーのコンセプトやデザインのみならず、プレゼンテーションでもポエティックな表現でファンの心を掴んできた。花とジュエリーで出来上がったこの展覧会は、訪れる人に昨年から心の中に淀んでいる不安や苛立ちを一瞬でも忘れさせてくれるに違いない。

 

 

 

 


代官山T-SITE GARDEN GALLERY 代官山T-SITE GARDEN GALLERY

花々で彩られた代官山T-SITE GARDEN GALLERY

 

代官山T-SITE GARDEN GALLERY 代官山T-SITE GARDEN GALLERY

生花のインスタレーションに目を見張る。壁面に貼られた写真も華道家の片桐功敦氏によるもの。

「LIGHT OF FLOWERS ハナの光」の企画は1年半以上前に始まったというが、ヴァン クリーフ&アーペルと花の関わりはメゾンが誕生した1906年に遡る。19世紀末から20世紀初頭にかけてパリでは美術運動アール・ヌーヴォーの流行とともに、それに影響を与えた日本の文化「ジャポニスム」が注目されていた。ゴッホやモネなど画家たちは絵筆で日本趣味をキャンバスに表し、ヴァン クリーフ&アーペルは滑らかに研磨した色とりどりの宝石や、卓越した宝飾技術によって日本の情緒を表現しようとした。

 

1926年にメゾン初のアーティスティックディレクターに任命されたルネ・ピュイサンは、植物を観察し、一枚一枚微妙に異なる花びらの形や、茎や葉の捻り、光が当たっている箇所と、影になっている箇所などを、大小の宝石、大胆な色使いによって再現し、いくつもの花のモチーフのジュエリーを創造した。それらのジュエリーはこの世に生を受けてから1世紀ほどの時間が経過しているものの、今でも崇高なほど美しい輝きを放っているものが多く残っている。今回のエキシビションでは、1930年代から60年代にかけて制作されたフラワーモチーフのブローチ、クリップ、ネックレス、イヤリング、リングに加え、当時の女性の優雅な暮らしを象徴するゴールドのリップスティックケースやブラックラッカーのシガレットケースなども展示されている。


ヴァイオレット ブーケ クリップ
イエローゴールド、アメジスト、ダイヤモンド  パトリモニー コレクション 1938年

バガテル シガレットケース
イエローゴールド、シルバー、プラチナ、ブラッククラッカー、ルビー
パトリモニー コレクション 1951年

デイジー リップスティック
プラチナ、イエローゴールド、ダイヤモンド
パトリモニー コレクション 1955年

近年の作品では、愛らしさが漂う「フリヴォル コレクション」のイエローゴールドのペンダントやリング、マザーオブパールやオニキスを用いたシックな「ローズ ド ノエル」のクリップ、清楚なダイヤモンドジュエリー「ロータス コレクション」や「コスモス コレクション」、ダイアルにフラワーモチーフがいっぱい描写されたウォッチ「レディ アーペル ジュール ニュイ フェ オンディーヌ ウォッチ」などが並び、ヴァン クリーフ&アーペルのエスプリとサヴォアフェール(匠の技)を享受させてくれる。ハイライトは、2008年に発表されたハイジュエリー「オミクジ ネックレス」だ。まさに現代のジャポニスムといえる作品である。


フリヴォル リング 8フラワー
イエローゴールド、ダイヤモンド


ローズ ド ノエル クリップ ミディアムモデル
イエローゴールド、マザーオブパール、ダイヤモンド

コスモス クリップペンダント ミディアムモデル
ローズゴールド、ダイヤモンド、マザーオブパール


レディ アーペル ジュール ニュイ フェ オンディーヌ ウオッチ
ホワイトゴールド、サファイア、スペサタイト、ダイヤモンド、ツァボライトガーネット

オミクジ ネックレス
ホワイトゴールド、ツァボライト、サファイア、ダイヤモンド
パトリモニーコレクション 2008年

ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーと共鳴し合うのが、華道家の片桐功敦氏による生花のインスタレーションだ。マツムラソウ、アネモネ、クリスマスローズ、サクラソウ、ワスレナグサ、スズラン、パンジーなど約50種類の植物が、床面に設置された大きな花器、あるいは池とも呼べる水場で可憐な姿を見せている。さらに壁や天井には片桐氏が撮影した植物のビジュアルが配置されている。注意して観てほしいのは、そのビジュアルには植物の根が強調されて映し出されているところだ。概して花を生ける時、すっぱり切り落としてしまう根の部分が堂々と正面に現れている意外性。

 

片桐氏は作品について「人の目が見ているものの背景には、実は見えていないものが同時に存在しています。花の盛りの時だけを見るのではなく、やがて朽ち、根があることを感じて欲しい。ささやかなメッセージを作品にこめています。いま誰もが辛い体験をしていますが、これは自然からの警告ではないかと思ったりします。自然との調和を取り戻さなくてはいけないと世界中が気づいたはずです」と思いを語った。


華道家の片桐功敦氏 華道家の片桐功敦氏

華道家の片桐功敦氏。展示期間中、毎日花の手入れを自身で行うという。


ヴァン クリーフ&アーペルと片桐氏のコラボレーションは、2回目である。コミュニケーションを重ねてメゾンの物作りについて熟知した片桐氏は、「ヴァン クリーフ&アーペルの職人たちの視点は、花を隅々まで見届けるという植物への愛に溢れている。……永久に枯れることのない花の光が宿り続けている」を讃える。

 

会期中、毎朝、片桐氏が自ら植物や水の状態をチェックし、メンテナンスを行うという。「LIGHT OF FLOWERS ハナの光」は、花への愛が満ちたエキシビションである。


期間限定エキシビション “LIGHTOFFLOWERSハナの光”

日時:2021年4月22 日(木)~5月9日(日)11:00~20:00
場所:代官山 T-SITE GARDEN GALLERY
※4月26日(月)、27日(火)、28 日(水)のみ18:00閉場
※入場無料

 

※新型コロナウイルス感染拡大防止に細心の注意を払い、実施中です。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当サイトに掲載している展覧会やイベントの内容が変更になっている可能性があります。公式サイトなどから最新情報をご確認ください。

 

Text by Ikuko Watanabe (INK INC)
photography by Van Cleef & Arpels SA, Mai Orisaku(amana)




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