誕生60周年を迎える高級腕時計ブランド・グランドセイコーの工房「グランドセイコースタジオ 雫石」。岩手県雫石町にある盛岡セイコー工業の敷地内に7月にオープンした。誕生60周年を迎える高級腕時計ブランド・グランドセイコーの工房「グランドセイコースタジオ 雫石」。岩手県雫石町にある盛岡セイコー工業の敷地内に7月にオープンした。

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GRAND SEIKOの聖地・雫石(前編)

2020.7.21

「グランドセイコースタジオ 雫石」に挑む、建築家・隈研吾の建築観

誕生60周年を迎える高級腕時計ブランド・グランドセイコーの工房「グランドセイコースタジオ 雫石」。岩手県雫石町にある盛岡セイコー工業の敷地内に7月にオープンした。

「THE NATURE OF TIME」の感性と本質を形にする

名峰岩手山を臨む岩手県雫石に位置する盛岡セイコー工業は、グランドセイコーをはじめとする、セイコーウオッチにおける高級機械式時計製造の聖地である。その要となるのが雫石高級時計工房だ。2004年の設立以来、高級機械式時計の部品製造からムーブメントや製品の組み立て、調整まで一貫生産を行ない、スイス高級時計ブランドでも限られたものであるマニュファクチュール体制を敷く。そしてグランドセイコーが誕生60周年を迎えた今年、さらなる充実を図るため、「グランドセイコースタジオ 雫石」を新たに設立した。

建築家・隈研吾が設計を手がけた新スタジオは、木材の温もりを生かした建築になっている。 建築家・隈研吾が設計を手がけた新スタジオは、木材の温もりを生かした建築になっている。

建築家・隈研吾が設計を手がけた新スタジオは、木材の温もりを生かした建築になっている。


グランドセイコーは最高峰の腕時計を目指し、メイドインジャパンならではの正確さや信頼性、美意識を研ぎ澄ませ、いまや国内はもとより世界に誇る日本のプレステージブランドとして成長を遂げた。その60年という歴史を踏まえ、さらに次世代へと新たなスタートを切る「グランドセイコースタジオ 雫石」の設計を担ったのは、日本を代表する建築家、隈研吾だ。今年パリのヴァンドーム広場にオープンしたばかりの世界最大のグランドセイコーブティックの設計も手がけた隈は、ブランドとの関わりも深い。そのなかでも誕生60周年というタイミングは感慨深いと語る。

写真右手側の組立工房は内廊下から見学できる。工房内からは豊かな緑と岩手山が見える。 写真右手側の組立工房は内廊下から見学できる。工房内からは豊かな緑と岩手山が見える。

写真右手側の組立工房は内廊下から見学できる。工房内からは豊かな緑と岩手山が見える。

「60年というのは人間の生きるリズムでいえば還暦に当たり、もともと還暦は人生が一巡し、生まれ変わる一つの区切りを意味します。こうした節目であると同時に、グランドセイコーが誕生した1960年というのは高度成長期のピークでした。これに対し60年後の2020年はある意味、日本が高度成長から始まった「量の時代」から「質の時代」に移る象徴のような時期だと思うんです。その転換期にグランドセイコーがこうした工房を設立する。それも新たな始まりだと感じますね」。こうした時間軸に着目するのも、建築がロングタームの中であり続けるものであり、建築家はどうしても時間という存在を意識せざるをえないからだろう。


グランドセイコーのブランドフィロソフィー「THE NATURE OF TIME」をこの工房に具現化したと語る建築家・隈研吾。2階のラウンジから名峰岩手山を望む。 グランドセイコーのブランドフィロソフィー「THE NATURE OF TIME」をこの工房に具現化したと語る建築家・隈研吾。2階のラウンジから名峰岩手山を望む。

グランドセイコーのブランドフィロソフィー「THE NATURE OF TIME」をこの工房に具現化したと語る建築家・隈研吾。2階のラウンジから名峰岩手山を望む。
Photography by Kenichi Shimura

「建築を作る時は、完成時だけではなくて、それが何十年経った後にどういう姿になっているかということを常に考えます。やはり長期的な価値というのは建築では一番重要ですし、木のような素材であれば時間が経てば経つほどいい味が出てきます。これからの時代の建築は、いよいよ長期的視野に立って設計することが重要になっていくでしょうね」。

 

「グランドセイコースタジオ 雫石」の設計のテーマとなったのは、グランドセイコーがブランドフィロソフィーとして掲げる「THE NATURE OF TIME」だ。これは、すべての営みが自然の一部であるとする日本ならではの時間意識と、グランドセイコーが常に追求してきた時の本質を表現している。はたしてこれをどのように具現化したのだろう。

機械式時計の組み立てや調整にあたり、匠が効率的かつ快適に仕事に集中できるようにつくられた工房のクリーンルーム。ホコリが舞うことなく、常に衛生的な空間であるために、現代の最高技術を駆使して設計された。 機械式時計の組み立てや調整にあたり、匠が効率的かつ快適に仕事に集中できるようにつくられた工房のクリーンルーム。ホコリが舞うことなく、常に衛生的な空間であるために、現代の最高技術を駆使して設計された。

機械式時計の組み立てや調整にあたり、匠が効率的かつ快適に仕事に集中できるようにつくられた工房のクリーンルーム。ホコリが舞うことなく、常に衛生的な空間であるために、現代の最高技術を駆使して設計された。

「『THE NATURE OF TIME』というのは誰もが直感的に感じられる言葉ではないでしょうか。“時の本質”といった本来の意味だけでなく、NATUREとTIMEがどこか不思議な組み合わせで、一体のように感じる。この建築ではそれをより具体的に表現しました。木というNATUREの素材が建物に使われ、その空間でTIMEを刻むグランドセイコーが作られていくという、まさに直感的に感じられるものを具体的な形にして見せたのがこの工房なのです。そういう意味では、建物自体でブランドの目指す理念を体現できるというのは、建築家としても非常に面白い、楽しい機会だったと思います」。

 

建築はそれ自体が単体として成立するわけではなく、周囲の環境や条件も大きく関わるものだ。その点においても「グランドセイコースタジオ 雫石」は稀有な建築になる、と言葉を続ける。「これだけの素晴らしい自然環境の中で、匠の精神や技術が保たれながら、ものづくりが続いてきたというのは類いまれなこと。そしてこの建物ができたことで、より長く継続し、守り伝えられていく。それは建物にとっても幸せなことだなと思います」。

 

新たに生まれた「グランドセイコースタジオ 雫石」で、匠によって「THE NATURE OF TIME」の理念が注がれたグランドセイコーが、手にする一人ひとりの腕元で時を刻み続ける。「皆さんがグランドセイコーを見た瞬間、その奥にはこういうスタジオがあって、そこにはこんな豊かな自然があって山や空があるということを感じていただけたらいいですね。そんなふうに時計が媒介になって、自然と人間がつながることを実感できたら最高だと思います」。

 

 

(敬称略)

 

 

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◆グランドセイコースタジオ 雫石
岩手県岩手郡雫石町板橋61番地1

 

 

Text by Mitsuru Shibata
Photography by Takashi Sekiguchi

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