アトリエでの髙田賢三。長年愛用しているソファに自身のホーム&ライフスタイルコレクション「K三」の「Shogun」のクッションが加わった。アトリエの壁を飾るのは、パリ在住の日本画家・釘町彰の作品。

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髙田賢三の新しい創造

2020.3.26

追悼/日本の美意識とパリのスタイルの融合。髙田賢三のホーム&ライフスタイルコレクション「K三」

アトリエでの髙田賢三。長年愛用しているソファに自身のホーム&ライフスタイルコレクション「K三」の「Shogun」のクッションが加わった。アトリエの壁を飾るのは、パリ在住の日本画家・釘町彰の作品。

2020年10月4日、フランス・パリ郊外にて、髙田賢三氏が逝去された。あまりにも突然の訃報に驚き、悲しむとともに、謹んで氏の冥福を祈る。ここに、今年3月に公開された記事を再掲し、在りし日の言葉を振り返りたい。(Premium Japan編集部)

 

 

 

 

髙田賢三はパリで成功を収めた世界的なデザイナー。1964年、25歳で横浜港から船旅でフランスに渡って以来、パリに居を構えて活躍している。1970年、パリ・2区にあるギャルリ・ヴィヴィエンヌに小さなブティックをオープンし、パリコレクションの前衛ともなるファッションショーを発表。以来「ケンゾー」ブランドはパリコレクションで不動の位置を築いたが、1999年、LVMHに買収されていた「KENZO」のデザイナーを退任することになる。

 

その後は「髙田賢三」ネームで仕事をスタート。日本の量販店とコラボレーションした、シーズン限定のPBブランド「セット・プルミエ」は、従来の賢三ファンに支持され、2017年には、その生涯を振り返った自伝「夢の回想録」を出版。これはパリでの成功、人生の伴侶となる最愛の男性との出会いと別れ、LVMHの買収劇など赤裸々に綴った自伝だ。2019年は演出家、宮本亜門による歌劇「蝶々夫人」の衣装を手掛けた。これまではファッションデザイナーとして発信を続けてきた髙田賢三が、2020年1月、ホーム&ライフスタイルブランド「K三(ケースリー)」を発表。パリ、サンジェルマンにあるそのアトリエとショールームを訪ねた。

アトリエのデコレーション。絵画、オブジェ、彫刻など、髙田賢三の審美眼で選ばれた作品が調和する空間 アトリエのデコレーション。絵画、オブジェ、彫刻など、髙田賢三の審美眼で選ばれた作品が調和する空間

アトリエのデコレーション。絵画、オブジェ、彫刻など、髙田賢三の審美眼で選ばれた作品が調和する空間

賢三のアトリエは自宅の2フロア下のスペースにある、広さもほぼ自宅と同じ角部屋だ。自宅の窓からはアンバリッドやエッフェル塔が見え、サン・ジェルマンの中でも最高のロケーションだ。アトリエ内のあちらこちらに生花が飾られ、世界中を旅して収集したアンティークやオブジェが、ギャラリーのように配されている。


アトリエの玄関から部屋までの長いアプローチにもアート作品が並ぶ。 アトリエの玄関から部屋までの長いアプローチにもアート作品が並ぶ。

アトリエの玄関から部屋までの長いアプローチにもアート作品が並ぶ。

「ホーム&ライフスタイルブランド『K三』の企画は、急に進んだのです。3年ほど前に仕事をしたインテリア・ブランド『ROCHE BOBOIS(ロッシュ・ボボワ)』のファクトリーであるイタリアのテキスタイル会社、『VESTOR(ヴェストール)』から、突然連絡をもらったのは昨年の秋。2020年1月のメゾン・エ・オブジェで発表するブランドを立ち上げたいとの提案でした。それからコンセプト作りと試作が始まりました」。メゾン・エ・オブジェは年2回パリで開催されるインテリアの展示会。ミラノサローネと並んで世界中のインテリア関係のバイヤーが集まる催しだ。

アトリエのデコレーション。ひとつひとつ紙で折られた白い鶴のオブジェはフランス人の知人による作品という。 アトリエのデコレーション。ひとつひとつ紙で折られた白い鶴のオブジェはフランス人の知人による作品という。

アトリエのデコレーション。ひとつひとつ紙で折られた白い鶴のオブジェはフランス人の知人による作品という。

今回「K三」から発表されたコレクションテーマは「Shogun(将軍)」、「Maiko(舞妓)」、「Sakura(桜)」の3つで構成されている。それぞれのテーマは色の展開が明快で、「Shogun」は黒とゴールド、「Maiko」は赤にオレンジ、「Sakura」はパステルピンクにベージュの世界。どのテーマにも華があり、生活を楽しむスタンスが感じられる、賢三らしいコレクションだ。一番のお気に入りはリバーシブル使いのできるテーブルセンター。テーブルだけではなく、椅子や本棚などにもアクセントに使えるファブリックアイテムだ。

 

「僕が一番大切にしたのは『日本人のアイデンティ』と『パリでの生活感』の融合です。ファッションショーではカラフルな色をたくさん使ってきましたが、実は僕の一番好きな色は黒。黒を基調にしたベーシックカラーとクールなイメージで作ったのが『Shogun』。もっと華やかでエレガントなイメージが好きな人のために、赤をベースにした『Maiko』を作りました。3つ目が自然をイメージしたパステルカラーの『Sakura』。イタリアらしい、ニュアンスのある発色のテキスタイルが得意なVESTORが、西陣織のグラデーションの帯にインスピレーションを得て、新たに魅力的なファブリックを作ってくれました」。


「K三」のショールームにある「Shogun」の部屋。金継ぎの手法を取り入れたファブリックは力強い印象。 「K三」のショールームにある「Shogun」の部屋。金継ぎの手法を取り入れたファブリックは力強い印象。

「K三」のショールームにある「Shogun」の部屋。金継ぎの手法を取り入れたファブリックは力強い印象。

サンジェルマンのショールームは、テーマ毎に3つの部屋に別れている。リネンやクッション、テーブルクロスなどファブリックアイテムの他、ベッドや椅子などが並ぶ。中でも目を惹くのは、きもの柄を織り込んだ屏風だ。「インテリアに関するプロが集まって『K三』のプロジェクトを企画、制作していますが、ヨーロッパには屏風職人はいない。そこで東京で探してもらい、今回のコレクションのために3点製作してもらいました。日本の職人の技を目の当たりにし、改めて魅せられました」。

 

もともと、日本のアルティザンには賞賛の眼差しを向けていたという。自宅やアトリエには、友人の日本のアーティストや工芸作家の作品が数多く飾られている。例えば、パリ在住の日本画家・釘町彰のプラチナ箔の屏風。その台は建築家・田根剛が制作したものだ。他にも、備前焼や伊万里などの工芸作品がクリスタルのシャンデリアと調和して装飾されている。

自然をイメージしたコレクション「Sakura」のベッドリネン。優しい色調の桜の世界が広がる。 自然をイメージしたコレクション「Sakura」のベッドリネン。優しい色調の桜の世界が広がる。

自然をイメージしたコレクション「Sakura」のベッドリネン。優しい色調の桜の世界が広がる。

「屏風を作ることで、これまで服作りでは関われなかった日本の工芸職人と仕事ができたことがとても楽しかった。まだまだ知られていない日本の職人技を『K三』によって発信していきたいと思っています。そんな発見や出合いのある日本への里帰りは、今までなかったので楽しみです」。今、賢三がもっとも興味を持っているのは茶室。「まだ未知の世界ですが、いつかホームコレクションで僕なりの茶室を表現できたら嬉しい。インテリアはファッションと違い、毎シーズンのトレンドを追いかけなくていい。じっくりと良いものを作っていきたい」。

 

年に5〜6回は仕事で日本に滞在するという。東京にも別宅を構える計画があるか聞いてみた。「常に人が出入りしてメンテナンスが必要なのが『家』というもの。一時は東京にも住まいを考えましたが、やはり帰る『家』はパリがいい。東京からパリに戻って、エッフェル塔の見える寝室のベッドにゴロンと横になってNHKのテレビ番組を見るとほっとするんです。東京での生活はホテルが快適です」。


ショールームの棚には「K三」の3つのテーマのコレクションが並ぶ。 ショールームの棚には「K三」の3つのテーマのコレクションが並ぶ。

ショールームの棚には「K三」の3つのテーマのコレクションが並ぶ。

初めてパリに来た時の1ヶ月の船旅は、香港、サイゴン、ボンベイから中近東、アフリカを回った世界半周の旅だった。そこで見たエスニックな衣装にインスパイアされたコレクションが、伝説とも言える髙田賢三のフォークロアスタイルを確立した。彼が「K三」をスタートした今後は、もしかすると「ロータス」や「カルメン」など、インテリアで世界を旅するコレクションが誕生するかもしれない。

 

(敬称略)

 

髙田賢三 KENZO TAKADA
デザイナー
1939年兵庫県生まれ。文化服装学院デザイン科を卒業し、1965年に渡仏。1970年パリ、ギャラリー・ヴィヴィエンヌにブティック「ジャング ル・ジャ ップ」をオープン、初コレクションを発表。パリの伝統的なクチュールに対し、日本人としての感性を駆使した新しい発想のコレクションが評判を呼び、世界的な名声を得る。1999年のパリコレクレションを最後にKENZOブランドを退く。2004年開催アテネオリンピック日本選手団公式服装をデザイン。その後もデザイナー活動、及び絵画制作を手掛け、現在は異業種とのコラボレート事業を展開。世界の伝統文化を継承する為の活動をライフワークの1つともしている。2017年、自伝「夢の回想録」出版。2019年に衣裳を手掛けた東京二期会主催/演出家宮本亞門氏による『蝶々夫人』は、日本を含む4ヶ国初の共同制作公演。2020年ザクセン州立歌劇場(ドリスデン)、デンマーク王立歌劇場、サンフランシスコ・オペラでの上演が予定されている。

Photography by Manabu Matsunaga
Text by Terumi Hagiwara

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