理想のドアを見つけたことから、オーダーキッチンがスタートした。キッチン製作とインテリアデザイン=FILE Photography by Ken Shirotani

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理想のキッチンのつくり方・考(後編)

2020.2.7

「直感」を信じイメージを大切にする。
「好き」を集めて「育てる」理想のキッチン

理想のドアを見つけたことから、オーダーキッチンがスタートした。キッチン製作とインテリアデザイン=FILE Photography by Ken Shirotani

前編ではキッチンジャーナリストの第一人者・本間美紀による、「自分らしい暮らし方を実現する自己表現の場」としてのキッチンのセオリーを紹介した。

後編ではより具体的なヒントや実例を交えながら、理想のキッチンを実現するコツを紹介する。

1.インテリアキッチンのセオリー「直感を信じる」

取材を通してたくさんのキッチンを訪ねるうちに、共通する言葉がいくつも見つかった。それは意外な言葉である。その一つが「直感を信じる」。家やキッチンを計画していると、ローンや契約、実務的な作業に追われて、夢を諦めてしまう人が多い中、多くの人は「最初にいいと思ったイメージを大切にして」と話してくれた。

 

業者はコストや機能、安全面や利便性を重視した説明が多く、デザインや素材感は最後に選ぶものになりがち。すると頭では納得していても、心ではなんとなく気に入っていない。そんなものができてしまう。特に日々の暮らしで色や質感を大事にする女性には大切なことだ。

アンティークのドアノブを取り付けたドア。ドアの向こうにはランドリー室がある。Photography by Ken Shirotani アンティークのドアノブを取り付けたドア。ドアの向こうにはランドリー室がある。Photography by Ken Shirotani

アンティークのドアノブを取り付けたドア。ドアの向こうにはランドリー室がある。Photography by Ken Shirotani

れいさんのキッチンづくりも実は「理想のドアがほしい」という思いから始まったものだった。工務店に相談したところ、難しいと言われても、その直感を信じていた。検索で調べるうち、ドアからキッチンまでを思い通りにオーダーできるキッチン会社が見つかった。思い切って会いに行くと、自分のイメージを汲み取ってくれ、「このまま自分の直感を信じていい」と決断したそうだ。

 

調理で使うワークトップは床とお揃いの無垢のオーク材に。一般的には木を水回りで使うのはすすめない会社が多いが、「傷がついてゆく経年変化を楽しんで、ヴィンテージになるようなキッチンが理想」と、れいさんは今はまだ幼い娘と料理をする日を楽しみにしている。


クリップボードのようになっている壁が印象的なキッチンダイニング。回遊型にしたことで2人でキッチン作業がスムーズになる。キッチン製作=リネアタラーラ/住宅設計=住友林業Photography by Miyuki Kaneko クリップボードのようになっている壁が印象的なキッチンダイニング。回遊型にしたことで2人でキッチン作業がスムーズになる。キッチン製作=リネアタラーラ/住宅設計=住友林業Photography by Miyuki Kaneko

クリップボードのようになっている壁が印象的なキッチンダイニング。回遊型にしたことで2人でキッチン作業がスムーズになる。キッチン製作=リネアタラーラ/住宅設計=住友林業

Photography by Miyuki Kaneko

キッチン内で背中合わせに作業をすることを考えて、通路は幅1mに設計している。キッチン製作=リネアタラーラ/住宅設計=住友林業 Photography by Miyuki Kaneko キッチン内で背中合わせに作業をすることを考えて、通路は幅1mに設計している。キッチン製作=リネアタラーラ/住宅設計=住友林業 Photography by Miyuki Kaneko

キッチン内で背中合わせに作業をすることを考えて、通路は幅1mに設計している。キッチン製作=リネアタラーラ/住宅設計=住友林業

Photography by Miyuki Kaneko

2.遠目で見ると、キッチンの考え方が変わる

前編でもお伝えしたが、キッチンで見落としがちなのが、一つが遠目で見て考えるということ。キッチンのショールームに行くと、多くの会社がシンクのつなぎ目やレンジフードやガスコンロのお手入れ性など、ものの説明に終始する。そうではなく一息ついて、キッチンを遠目で見て欲しい。

 

じゅんさんとけいさんの夫婦はマットホワイト、オーク材、真鍮のカラーというテーマカラーを決め、インテリア全体の中でのキッチンと家具を計画した。オーダーメイドで依頼したのは、清潔感がある白いキッチンに真鍮のラインが引かれたオリジナルのデザイン。

 

見た目だけではない。共働きで育児中の二人は、今時の夫婦らしく家事も分担。好きな色や素材に満たされながらも、二人がそれぞれ料理の作業を分担できる2列型のキッチンとし、食器洗い機やハイカロリーのガスコンロ、引き出し式の大きな食器収納を備え、忙しい日々でも家族が楽しく過ごせる場所にしている。

左:シンクまで真っ白なキッチン。左手にある水槽はキッチンと一緒に制作したもの。右:使いやすさを優先し、コーヒーマシンは目の高さに設置。その上の棚にはコーヒー豆や茶葉がストックされている。キッチン製作=クチーナ/住宅設計=三菱地所ホームPhotography by Yukinori Okamura 左:シンクまで真っ白なキッチン。左手にある水槽はキッチンと一緒に制作したもの。右:使いやすさを優先し、コーヒーマシンは目の高さに設置。その上の棚にはコーヒー豆や茶葉がストックされている。キッチン製作=クチーナ/住宅設計=三菱地所ホームPhotography by Yukinori Okamura

左:シンクまで真っ白なキッチン。左手にある水槽はキッチンと一緒に制作したもの。

右:使いやすさを優先し、コーヒーマシンは目の高さに設置。その上の棚にはコーヒー豆や茶葉がストックされている。キッチン製作=クチーナ/住宅設計=三菱地所ホーム

Photography by Yukinori Okamura


3.しまうより「生かす」今どきの収納

そして収納の意識も変わった。「しまうよりも生かす」収納が今時のキッチンの常識だ。キッチンの収納に求めるものは「入る量」ではなく、必要ものだけを持ち、適した場所にしまうこと。かこさんのキッチンは、食器からお箸、文房具、ゴミ箱、まな板、洗剤、コーヒーメーカーまで、できるだけ無駄な動きがないように、キッチンの中に計画した。

 

茶道をたしなむというかこさんは、準備からもてなし、片付けまでが料理と考え、「茶席」の流れをキッチンに生かした。すべて自分の持ち物や日常の家事の要素をメモに書き出して整理した。ですので足りないものも要らないものもなく、すべてがぴったりとキッチンに収まっているので、散らかることが少ないと話す。

 

私たちは、経済の高度成長期にものを重視し、家中を埋め尽くす死蔵品に苦しむ親の世代を見ている。そこには学びがある。お気に入りのもの、良い道具を持ち、長く使い、時には寿命を迎えたモノにきちんとサヨナラを言えること。賢い家族の決断力、判断力が日本のキッチン収納のあり方を変えていると感じる。

シルバーブラウンカラーに加工したアルミ材を使用したキッチン。光によって変化する色や風合いを楽しめる空間だ。キッチン製作=アムスタイル/住宅設計=青島裕之 Photography by Yukinori Okamura シルバーブラウンカラーに加工したアルミ材を使用したキッチン。光によって変化する色や風合いを楽しめる空間だ。キッチン製作=アムスタイル/住宅設計=青島裕之 Photography by Yukinori Okamura

シルバーブラウンカラーに加工したアルミ材を使用したキッチン。光によって変化する色や風合いを楽しめる空間だ。キッチン製作=アムスタイル/住宅設計=青島裕之

Photography by Yukinori Okamura

4.完璧なキッチンなんて本当はない

最後に、やはり取材で出会った言葉で、多くの人に共感を得ている言葉を紹介しよう。

 

それは「完璧なキッチンなんてない、みんな育てている」、ということ。どんなに考え抜いても、いざできてみたら違ったな、ということはどの家にもある。懸命な家族はその先がすごい。8割大丈夫ならそれは大丈夫。ちょっと困った部分を工夫して解決して、納得して暮らす賢さと愛情があるのだ。

 

これはキッチンに限らず、人生すべてに共通するセオリーではないだろうか?

 

理想のキッチンのつくり方・考(前編)

 

(敬称略)

本間美紀 Miki Honma

早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」編集部に入社。独立後はインテリア視点からのキッチン、家具、住まい、家電、キッチンツールまで、デザインのある暮らしの取材を得意とし、建築家住宅の取材は300件以上、ユーザーとメーカー、両サイドからのインタビューを重視し、ドイツ、イタリア、北欧など海外取材も多く、セミナー活動も増えている。著書にデザインキッチンの新しい選び方」(学芸出版社)「人生を変えるINTERIORKITCHEN」「リアルキッチン&インテリア」(小学館)

https://realkitchen-interior.com/

「人生を変えるINTERIOR KITCHEN」(小学館)「リアルキッチン&インテリア」の取材のエッセンスを集約した、洋書のような美しいインテリアキッチンが楽しめる1冊。インテリアキッチンのセオリーと夢をかなえた15家族の実例ドキュメンタリーに、インテリアキッチンの先進国ヨーロッパの取材も交えた、本質的なキッチン&インテリアの考え方が学べる。1600円(税別)https://www.shogakukan.co.jp/books/09310894 「人生を変えるINTERIOR KITCHEN」(小学館)「リアルキッチン&インテリア」の取材のエッセンスを集約した、洋書のような美しいインテリアキッチンが楽しめる1冊。インテリアキッチンのセオリーと夢をかなえた15家族の実例ドキュメンタリーに、インテリアキッチンの先進国ヨーロッパの取材も交えた、本質的なキッチン&インテリアの考え方が学べる。1600円(税別)https://www.shogakukan.co.jp/books/09310894

「人生を変えるINTERIOR KITCHEN」(小学館)

「リアルキッチン&インテリア」の取材のエッセンスを集約した、洋書のような美しいインテリアキッチンが楽しめる1冊。インテリアキッチンのセオリーと夢をかなえた15家族の実例ドキュメンタリーに、インテリアキッチンの先進国ヨーロッパの取材も交えた、本質的なキッチン&インテリアの考え方が学べる。1,600円(税別)

https://www.shogakukan.co.jp/books/09310894

Text by Miki Honma
Photography by ©人生を変えるINTERIOR KITCHEN

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