「セイロンライティア」と「 祇園祭」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫がいける七月の花、七月の京都】「セイロンライティア」と「 祇園祭」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫がいける七月の花、七月の京都】

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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2024.7.11

「セイロンライティア」と「祇園祭」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫がいける七月の花、七月の京都】

1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「笹岡式盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、7月は「セイロンライティア」と「祇園祭」です。







ル・コルビジェの意匠にオマージュを込め、

スリランカ産の純白の花を生ける

涼し気な白い花は、スリランカ産のセイロンライティアという花木です。それほど頻繁に使う花材ではありませんが、星の形にも似た清楚な白い花が、涼感を運んでくれます。

水盤のように見えるのは花器ではなく、ル・コルビジェのデザインに由来するプレートで、イタリアの家具メーカーである「カッシーナ」製のものです。

20世紀を代表する建築家、ル・コルビジェは、かつてインド北部の都市チャンディガールで、大規模な都市計画を手がけました。世界遺産ともなっているこの都市には、コルビジェがデザインした数々の建築物が残っています。このプレートは、その建築物の壁面に描かれた浮彫りの意匠をモチーフとしてデザインされています。長辺が40㎝弱の長方形のプレートに描かれているのは、太陽の動きです。

大学で建築を学んだ私にとって、コルビジェは尊敬する建築家の一人です。そんな偉大な建築家にオマージュを捧げる意味も込めていけてみました。葉を水に浸すことは、普通は避けますが、今回の場合はそうしないと花が水に潜ってしまいますので。あえて葉を水につけ、太陽の動きに沿うようなイメージで、花を配してみました。

 




小学校5年生のときに長刀鉾の稚児に。

注連縄を切る時の緊張感は今でも覚えています

7月の京都といえば祇園祭です。京都駅、新京極、四条通……。7月に入ると市内のそこここでお囃子が聞こえ、お祭り気分が高まってきます。祇園祭とは、本来は八坂神社の祭祀で、氏子たちが担ぐ神輿が祭の中心ではありますが、多くの観光客の注目を集めるのは、やはり山鉾巡行です。17日に行われる前祭(さきまつり)の巡行で先頭を担うのが長刀鉾。

かつては、多くの山鉾に「生稚児(いきちご)」と呼ばれるお稚児さんが乗っていたのですが、今では長刀鉾のみとなり、他の山鉾は人形の稚児を乗せたりしています。



祇園祭 長刀鉾 祇園祭 長刀鉾

「くじ取らず」の長刀鉾は。前祭の巡行で毎年先陣を務める。四条通りに渡された注連縄を真剣で切り、巡行の開始を告げるのが稚児の役目。写真は2019年の巡行の様子。ⒸAkira Nakata




この長刀鉾の稚児を、小学校5年生のときに、務めました。稚児は神様の使いですので、地面に足をつけてはいけないとされています。したがって、移動の際は白馬に乗るか、強力(ごうりき)さんと呼ばれる男性の肩に乗せていただきます。関わる方も多く、神事ですのでどなたも厳粛そのもので、子ども心にも「遊び半分ではないんだ」と、強く思いました。

稚児の最大の役目である、四条通に張られた注連縄を真剣で切る瞬間の緊張感は、今でも覚えています。



ご縁をいただき、長刀鉾の町会場のご神前に

毎年献花をすることに

稚児を務めさせていただいたご縁で、翌年から長刀鉾の囃子方に加わりました。囃子方とは、山鉾に乗り込み巡行中にお囃子を奏でる役目の人々のことです。鉾町に住む子どもにとっては、憧れの的です。最初は「コンチキチン」と鳴る鉦(かね)から始まり、二十歳前後になると太鼓か笛へと進みます。数多くある山鉾でそれぞれ囃子が違い、お互いその腕を競いあいますから、囃子方も必死です。一年を通して厳しい練習が続きます。




 長刀鉾 辻回し  長刀鉾 辻回し

巡行の見せ場の一つが「辻回し」。総重量にして10トン強の巨大な山鉾を、人力のみで90度方向転換させる。首尾よく方向転換できると観客から盛大な拍手が。写真は2019年の巡行の様子。ⒸAkira Nakata

私は笛方に進み、しばらくは巡行にも加わっていたのですが、家元を継承してからは、毎回の練習に参加することが難しくなり、囃子方の役目を降りさせていただきました。

その代わりに、長年ご縁をいただいたお礼として、長刀鉾の町会所のご神前に、毎年献花というかたちで花をいけさせていただいています。

祇園祭の花といえば、檜扇(ひおうぎ)です。アヤメの一種ですが、檜の薄板で作った扇に葉が似ていることから、この名前となりました。濃い緑の葉は涼感もあり、また、扇のような末広がりのめでたさも伴い、祇園祭には欠かすことのできない花材です。



長刀鉾町会所 献花 長刀鉾町会所 献花

長刀鉾町会所のご神前にいけられた献花。花が供えられているのは、毎年15日から17日の3日間。


「祇園祭にいける いけなば展」

四条通がさながらストリートギャラリーに

祇園祭の際に是非に見ていただきたいのが、京都いけなば協会が行っている「祇園祭にいける いけなば展」です。「四条繫栄会商店街」と「祇園商店街」の方々のご協力をいただき、八坂神社前の祇園石段下から四条烏丸までの四条通のショーウィンドーに各流派が花をいけます。

今年で38回目となるこの催しは、私の祖父が中心となって始めたもので、四条通がさながらストリートギャラリーとなります。15日から17日まで3日間開催されます。各流派それぞれの夏の花を、ぜひお楽しみください。

 

一年を通しておつきあいいただいた「月々の花 月々の京」も、この7月で最後となります。一年間お読みいただき、本当にありがとうございました。生活の身の周りに花があることの楽しみ、そしてその花をいける楽しみなどを、皆様にお伝えすることができましたでしょうか。

この連載をきっかけに、少しでも多くの人が、いけばなに興味を持っていただければ、それほど嬉しいことはありません。また、どこかでお会いできることを願って最後のご挨拶とさせていただきます。

























笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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