南條工房のおりん

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「マイスターストラーセ日本版」 未来へ駆ける伝統工芸の匠たち

2021.8.25

南條工房 澄み切った“おりん”の響きを追い求めて

photo by Yoshinori Yamazaki

世界の伝統工芸を紹介するウェブサイト『マイスターストラーセ 日本版』に参加する匠たちを紹介していく連載の今回は、京都の南條工房を訪ねた。

 

南條工房は”おりん”の工房である。おりんとは、寺院や家庭で使われる、金属の仏具のこと。りん棒で軽くたたくことで生まれる心地よい音色は、聞く人に安らぎをもたらしてくれる。

 

 

 


美しい音色を響かせるおりんを作る、職人技

 

おりんをはじめ、各地の囃子鉦、鳴物神仏具を専門に手掛けているのが、京都の南條工房である。日本三大祭りの一つ、祇園祭で使われる鉦も、南條工房によるもの。同工房のおりんは、佐波理(さはり)と呼ばれる錫と銅の合金から作られている。高熱で溶かした合金を、組み合わせた雄型と雌型に流し込む。それを冷ましてから型を割り、中身を取り出し、ろくろにかけて削り、おりんが形作られる。

 

その作業は、炉の火加減、金属の溶け具合、鋳型の冷まし加減、外気温や湿度など、日々変わる複雑な条件を見極めながら進められるため、熟練した職人の技なくしてはできない。


おりんの制作風景。整然と並べられた型に、溶けた合金が手際よく注がれていく。 おりんの制作風景。整然と並べられた型に、溶けた合金が手際よく注がれていく。

おりんの制作風景。整然と並べられた型に、溶けた合金が手際よく注がれていく。

工房内の炉から、溶けた合金を取り出す作業の様子。 工房内の炉から、溶けた合金を取り出す作業の様子。

工房内の炉から、溶けた合金を取り出す作業の様子。


南條工房の歴史は190余年。7代目の南條和哉さんは、同じ工程を経て作られても、ひとつひとつ音色が違うと、音の奥深さを語る。「聞く人によって感じ方が違っていて、心地よく感じたり、懐かしく感じたり。そのなかで心地よい音色を見つけてもらえたときが、(作っていて)よかったと思える瞬間です」。


現代にふさわしいあり方を求めてたどりついた「LinNe(リンネ)」

 

現在、南條工房では、仏具としてのおりんの製法を活かして、新たな取り組みを始めている。それが「LinNe(リンネ)」。手のひらに乗るほどのサイズのリンネは、バッグのアクセサリーとして、また風鈴代わりに軒先に吊り下げてと、多彩に使える新感覚のおりんだ。もともとは、身近に音色を感じてほしいとの思いから誕生したもので、携帯しやすく気軽に使える仕様になっている。

 


「LinNe(リンネ)」に耳を傾ける 「LinNe(リンネ)」に耳を傾ける

耳を澄まし、完成したリンネの響きを確認する南條さん。同じ工程で作られても、ひとつひとつの音色が異なるというから興味深い。


昔ながらの手法を取り入れつつも、リンネの開発は、新たな素材やアクセサリーとしてのデザインの研究など、新鮮な体験の連続であった。また、雑貨であるリンネは、自分たちで販売する必要がない仏具と異なり、多くの人の声に耳を傾けながら開発が行われた。そこで得られたさまざまな意見も、南條さんの新たな刺激になったという。さらに、リンネがきっかけで、サウンドアーティストとのコラボや、アップル 京都でのワークショップ開催など、おりんの世界に新たな広がりももたらしている。


「以前は仏具作りの修行をしていると思っていましたが、実は音色を作っていると意識が変わりました。すべての工程が音色のためにあると気付けたのです。人に寄り添い、気持ちを落ち着かせたり、活力を与えたり。そんな風に音色が、何かの原動力になれればいいですね」。

 

使われる場が限定されていた、おりんが若い世代の手で、人々の心を潤す、より身近なツールへと進化。その音色は、いま日本のみならず、世界に向けて、響き渡ろうとしている。


Text by Tsuyoshi Kawata

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