西村友禅彫刻店の作業風景西村友禅彫刻店の作業風景

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「マイスターストラーセ日本版」 未来へ駆ける伝統工芸の匠たち

2021.2.19

伝統工芸の世界へ発信する「マイスターストラーセ日本版」上陸 発表会レポート

京友禅、誂友禅染の型紙を手彫りで製作している西村友禅彫刻店の作業風景。いまは、手彫りの技術を薄い木のシートや革に応用することで、さらなる活動の広がりを見せている。

日本の職人芸を世界に伝えたい
「マイスターストラーセ 日本語版」の狙い

 

世界の優れた手工芸やものづくりの伝統・技術を発信しているポータルサイト「マイスターストラーセ」の日本語版が、今年2月3日にスタートした。1999年、オーストリアで誕生したマイスターストラーセは、ヨーロッパを中心に8カ国の約5000の工房が参加。年間480万アクセス、季刊カタログ郵送先約1万件という、まさに職人技の殿堂のようなサイトだ。

いよいよ上陸した「マイスターストラーセ日本版」のトップ画面。 いよいよ上陸した「マイスターストラーセ日本版」のトップ画面。

いよいよ上陸した「マイスターストラーセ日本版」のトップ画面。

日本語版のオープン前日に行われた記者発表会では、日本語版の代表を務める西堀耕太郎氏が登壇。素晴らしい技術を持ちながら、時代の変化に対応できていない職人や、後継者不足で廃業を余儀なくされる工房も少なくない。そうした現状のなか、日本のものづくりを世界に発信し、力強くサポートするツールとなるのがサイトの目標であると語られた。


記者発表の様子。西堀氏からマイスターストラーセ 日本語版を立ち上げた経緯や目標とともに、日本の伝統的なものづくりの現状が紹介された。 記者発表の様子。西堀氏からマイスターストラーセ 日本語版を立ち上げた経緯や目標とともに、日本の伝統的なものづくりの現状が紹介された。

記者発表の様子。西堀氏からマイスターストラーセ 日本語版を立ち上げた経緯や目標とともに、日本の伝統的なものづくりの現状が紹介された。

西堀氏 西堀氏

西堀耕太郎・マイスターストラーセ 日本代表。和歌山県新宮市出身。カナダ留学後、市役所で通訳を務める。結婚後、妻の実家である日吉屋で、京和傘の職人の道へ進み、現在は5代目当主を務める。

日本語版の代表を務める西堀耕太郎氏は、京和傘店「日吉屋」の5代目当主であり、自身も和傘職人である。6年前、「マイスターストラーセ」(本国版)を運営するクリストフ&ニコラ・ラース夫妻が、世界中の優れた職人の技を探し求めて、日吉屋を訪れ、両者が意気投合したなかで日本語版は生まれた。

伝統文化は時代に合わせて変化してこそ、生きる

 

西堀氏によれば、日本の伝統工芸の発達は分業の歴史でもあるという。分業により、量産が可能となり、多くの人に製品を届けることができたのだ。一方で、多くの職人は工程の一部分を担当しているだけなので、一人では最終商品まで完成させることができない。

 

「分断されると、職人の技が存続できません。その技術はほかの製品に転用ができるので、時代に合わせて変化して構わない」と語る。西堀氏自身も廃業寸前だった日吉屋の和傘の技術を、照明器具に転用することで新たな価値を生み、再生させた実績を持つ。

 

「その時代ごとに、いいねと思えるものに変化しないと生き残れません」と語る彼が掲げるのは「伝統は革新の連続である」との強い思いだ。

京都で唯一の和傘製造元、日吉屋による傘の制作の様子。竹の骨を手作業で組み、和紙を張り、油を紙に塗るといった工程を経て完成する。 京都で唯一の和傘製造元、日吉屋による傘の制作の様子。竹の骨を手作業で組み、和紙を張り、油を紙に塗るといった工程を経て完成する。

京都で唯一の和傘製造元、日吉屋による傘の制作の様子。竹の骨を手作業で組み、和紙を張り、油を紙に塗るといった工程を経て完成する。

現状はサイトに共感する企業や個人の職人らを募り、趣旨に合致すれば、参加できる仕組みだ。紹介されるジャンルは工芸品、宝飾品、食品、衣料、インテリア、素材など多岐にわたり、「特定のものづくりを専門に行う、または取り扱う」、「国内で生産され手作業の工程がある」「製作物に伝統的な技術が反映されている」という、これらの条件が求められる。

 

本国版を運営する、ボヘミアングラスの老舗ブランド「ロブマイヤー」の創業者一族であるクリストフ&リコラ・ラース夫妻がビデオメッセージで登場。メッセージで、夫妻にとって西堀さんは「ソウルメイト」だと語られた。

ファッションビジネス界の大物も参加

 

日本語版に、エルメスのフランス本社元副社長を務めた齋藤峰明氏がアドバイザーで参加する点にも注目したい。これまで西堀氏と齋藤氏は、フランスで日本のものづくりの情報発信、およびそのためのショップ運営、若いクリエイターと日本の伝統技術の橋渡しなどを共同で行ってきた仲だ。

シーナリー代表・齋藤峰明氏。 シーナリー代表・齋藤峰明氏。

シーナリー代表・齋藤峰明氏。

「私にとって伝統産業を世界に発信することは、日本の地方を活性化すること。長い時間をかけて培ってきた日本独自のサステナブルなライフスタイルを新しい形で復活させることでもあります」(齋藤氏)。

現在、コロナ禍で日本の伝統産業は厳しい状況にある。が、発展する新たなテクノロジーによって、提案の仕方や流通の可能性の広がりを見せるだろうと、齋藤氏のマイスターストラーセ 日本語版への期待は大きい。

 

日本語版では、本国版と連動したオンラインショッピングを展開し、海外の工芸愛好家にも日本の製品を届けることも視野に入れている。今後、日本の参加者を10年で1000件にするのが目標だ。

 

「日本は世界的に見ても、職人の技術が残されている国だと思います。世界のクラフトの中に、日本のプレゼンスを示すべき」と意気込む西堀氏。そんな言葉からも、日本の職人技が、まだまだ受け入れられ、進化・発達を遂げる可能性を秘めていることがうかがえる。

 

マイスターストラーセ 日本語版は、日本の伝統の技を世界に発信すると同時に、我々にとっても再発見の場となるに違いない。今後、どんな広がりを見せるのか。彼らの活躍が実に楽しみだ。

Text by Tsuyoshi Kawata
Photography by Kazuaki Koyama(amana)

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