庄司シェフ

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未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2022.2.18

9. 2022年アジアの最優秀女性シェフ賞受賞!「été」シェフ 庄司夏子~30歳女性シェフが目指す頂上は、まだ遠い先に

2022年版「アジアのベストレストラン50」において、「アジアの最優秀女性シェフ賞(ASIA’S BEST FEMALE CHEF AWARD)」を受賞した「été(エテ)」の庄司夏子シェフ。2022年3月29日に開催の第10回「アジアのベストレストラン50」授賞式にて表彰も予定されている。今回はその快挙を記念して、2020年に行ったインタビューを再掲する。

初の快挙を果たした、30歳日本人女性シェフの素顔

2020年3月に発表された「アジアのベストレストラン50」で快挙があった。これまで、毎年ランキングを賑わせている日本のレストランだが、実はこれまで女性シェフが受賞したことは一度もない。ところが今回、50のランキングではないが、特別賞の「ベストパティシエ賞」を、日本人女性としては初めて「été(エテ)」の庄司夏子シェフが受賞したのだ。昨今、わざわざ「女性○○」と呼ぶこと自体がはばかられるほど、どんなジャンルでも女性の活躍は当たり前になったというのに、食の世界では残念ながら日本人女性の立ち位置はまだまだだった。ミシュランでもベストレストラン50でも、海外では多くの女性シェフが華々しい活躍で注目を集めているのに、だ。

 

それを成し遂げてしまったということで、庄司夏子シェフには現在、これまで以上に内外からの熱い注目が集まっている。受賞後は世界的アーティストの村上隆氏とのコラボレートによる宝石のようなチョコレートを発表するなど、相変わらず華やかで忙しい毎日を送る庄司シェフ。女優のような出で立ちでファッション誌やCMに登場し、にっこり微笑む彼女を見たことがある人は、この若いシェフがその裏でどんな日常を送っているか、想像できないのではないだろうか。リミッターを外した車で爆走するような人生、それこそ庄司がこれまで歩んできた料理人としての毎日だった。


「été」のシグネチャー料理であるウニのタルト。パティシエとしての確かな技術は、これ以上ないほどにサクサクと香ばしい生地に生きている。 「été」のシグネチャー料理であるウニのタルト。パティシエとしての確かな技術は、これ以上ないほどにサクサクと香ばしい生地に生きている。

「été」のシグネチャー料理であるウニのタルト。パティシエとしての確かな技術は、これ以上ないほどにサクサクと香ばしい生地に生きている。


苦しくハード、孤独な「天国」を見出してから

複雑な家庭環境で育った庄司にとって、15歳で見つけた「レストランの厨房」はようやく自分を自由に表現できる天国だったという。けれど、料理にかける情熱やトップを目指す意気込みは自分でもコントロールできないほど強く、常に没頭しすぎるあまりに人一倍悔しい思いや苦しさを味わってきた。「こんなことでは死にはしない」という言葉が人生のモットーだと冗談交じりに言うが、そこには本気の感情が入り混じる。好きか、嫌いか。それだけで突っ走るしか出来ない不器用な面は、なかなか人にわかってもらえないのかもしれない。

 

「仕事が好きすぎて、全部を捧げるしか出来ないんです。日本の若い女性たちにこの世界の素晴らしさを伝え、目指す人が増えればいいなと思いますが、今の自分のありのままの暮らしぶりを見せたら、かえって引いてしまわれるでしょうね。休みたい、遊びたい、恋愛したいという感情は今の自分には邪魔だと思うくらい、料理と店にしか興味がありません」艶やかなルックスとは裏腹に、淡々と語る口調が印象的な庄司シェフ。「主婦とシェフ業を両立させて幸せです」と語れるほうが業界的な人材育成に貢献できるとわかってはいるが、どうも難しそうだ。

 

けれど、ストイックに一人走り続けてきた暮らしに最近、変化があった。庄司を目標にしてついてきてくれる若い女性スタッフが2名、「été」の厨房で働いているのだ。「新型コロナウイルスでペーパー類が入手困難になり始めたある日、店に着いたら見慣れないブランドのトイレットペーパーが置いてあったんです。聞けば、スタッフの一人が『お客様のために、自宅にあるものを持ってきました』と言う。こんな素晴らしいスタッフが私についてきてくれるんだと知り、感動してしまいました」。

 

2019年末には店舗を移転し、よりオープンな環境でレストランを運営できる体制に変えた。「ベストパティシエ賞」を受賞したが、目指すはもちろんシェフとしての成功だ。ぐいぐいと女性料理人の世界に道をつけていく庄司は、まさしく新時代を作る存在だ。

 

(敬称略)


庄司夏子 Natsuko Shoji

1989年、東京生まれ。高校在学中より都内フランス料理店で修業し、卒業後は代官山「ル・ジュー・ド・ラシェット」、南青山「フロリレージュ」に務める。2014年、24歳で独立しパティスリー「フルール・ド・エテ」を、1年後にレストラン「été」もオープン。2020年3月、日本人女性初となる「アジアのベストレストラン ベストパティシエ賞」受賞。


エテ été

住所 東京都渋谷区西原3-23-1

電話番号 非公表

ランチ、ディナー 予約に応じて営業。

1日1テーブル6名まで予約可。予約はWebサイトへ。

不定休

コース 1名33,000円

*税・サービス料別

和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Photography by Shintaro Oki
Text by Mayuko Yamaguchi

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