福山 剛シェフ

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.5.8

8. 「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」シェフ 福山 剛~美味しさで包んだ「福岡愛」を世界に届けたい

西中洲の名店が世界デビューを果たした日

「アジアのベストレストラン」のセレモニーなどで、大勢の若いシェフたちが集まる時、いつもそばでこの人がニコニコと様子を見守っているのがおなじみの光景となった。時には「はいみなさん、おしゃべりをやめてステージをご覧くださいね」と、“引率”めいたセリフで皆を和ませる。「シェフ仲間からは『年長さん』と呼ばれているんですよ、僕」とはにかんで語る様子がまた似合う、福山剛シェフ。九州地区にミシュランの星付きレストランはいくつかあるが、唯一、福山だけは「アジアのベストレストラン」へもランクインを果たし、独自のプレゼンスを示すレストランとして注目を集め続けてきた。

 

しかし、本人にとって大切なのは、そういった栄冠ではないのだという。どれだけ世界的な知名度が上がっても、変わらずに地元客に愛され続け、料理を喜んでもらうこと。愚直なまでにそこだけを大事にしてこれまでやってきた。

「西中洲に店をオープンして15年くらい経った時に、不意に『アジアのベストレストラン』にランクインしました。それがどういうものかもその時はあまり理解できていなかったんですが、まぁ15年も満席を続けてきたからちょっとしたご褒美なのかな、くらいの気持ちだったんです」。しかし、この時を境に福山の店は新たな章を迎えることになった。

コースメニューの一品。ぶどうをモチーフにしたジュエリーのように美しい皿は、客の目の前で仕上げられることによって楽しいプレゼンテーション効果も。 コースメニューの一品。ぶどうをモチーフにしたジュエリーのように美しい皿は、客の目の前で仕上げられることによって楽しいプレゼンテーション効果も。

コースメニューの一品。ぶどうをモチーフにしたジュエリーのように美しい皿は、客の目の前で仕上げられることによって楽しいプレゼンテーション効果も。

ベテランシェフが世界への扉を開けたきっかけ

ずっと厨房に立ちっぱなしの生活を高校生の時から続けているようなもので、福山はあまりメディアを積極的にチェックすることはしない。気に入った店に行き続けるタイプであり、次から次へと話題店にリサーチに行くこともなかった。昨今、たまに参加するようになった他国のシェフとのコラボレーションイベントなども、正直、シャイな福山にとっては苦手なことだったと言う。ターニングポイントは意外な形で訪れた。

 

「以前から、年に数度うちの店で食事をしてくれる上海のお客様がいたんです。僕はお客様と飲みに行くことはふだんはしないんですが、その方はすっかり常連になってくださったこともあり、ひょんなことから食事をすることになって。その時に、アジアのガストロノミー界がどんなことになっているかというような話を聞き、初めて興味を覚えました」。

 

翌年には実際に上海に出向き、話題の「ウルトラバイオレット」で食事をした。その時に同席したのが、その後4年連続で「アジアのベストレストラン」の1位を獲ることになるバンコク「GAGGAN」のシェフ、ガガン・アナンドだった。底抜けに明るく美味しいものが大好きなタフガイ同士意気投合し、そこから親密な付き合いを重ねることになったのだが、同時にこの頃から福山は自身が愛する福岡を、別の視点から見られるようになったという。

 

「僕は福岡県の内陸部にある夜須町(現筑前町)で育ちました。福岡が大好きで誇りでもあり、この地のお客さんが好きなんです。なので、そこに向けて料理を作り続けるのが楽しかったんですが、インド出身のガガンがバンコクの街で世界に向けてモダンインド料理を作り、評価を得ているのを知り、あぁ、こういう報い方もあるんだな、と。変な目立ち方をしたら逆に地元のお客さんに切られちゃう怖さもあるので、恐る恐る小さなチャレンジを繰り返しているのに過ぎないんですけどね(笑)」。

 

近い将来、長く続けた店にいったんピリオドを打ち、ガガン・アナンドと組んで新たなレストランを福岡にオープンすることを発表した福山シェフ。「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」としての“卒業制作”を味わえる期間は、あとわずか。多くのフーディーたちをやきもきさせている。


福山剛 Takeshi Fukuyama

1971年福岡県生まれ。高校時代からフランス料理の道に進み、福岡「イル・ド・フランス」、「マーキュリーカフェ」で修業した後に2002年、西中洲に自身の店「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」をオープン。2016年に「アジアのベストレストラン」に初めてランクイン。2020年いっぱいで店をクローズし、来年バンコクのシェフ、ガガン・アナンドと共に「GohGan」を開業予定。

ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ La Maison de la Nature Goh

福岡県福岡市中央区西中洲2-26

092-724-0955

18:00〜24:00

日曜定休

ディナー 6,000円、8,000円

*税・サービス料別

Premium X 未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち
和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Photography by Hiyori
Text by Mayuko Yamaguchi

 

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当サイトに掲載しているレストラン情報の内容が変更になっている可能性があります。公式サイトなどから最新情報をご確認ください。

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新…

Premium X

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。