川田智也

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2020.5.1

7. 「茶禅華」料理長 川田智也~美味の先にある「和魂漢才」を目指して

古典を重んじる37歳が目標にする「料理観」

静かに語る話の中に、たびたび中国の格言が登場する。それらの言葉は美しく書にしたためられて額装され、「茶禅華」店内の壁を飾っている。「和魂漢才(わこんかんさい)」「真味只是淡(しんみただこれたん)」。パッと見ただけでは理解できない漢字を眺めていると、料理長の川田智也はひとつひとつ、丁寧にその意味を説明してくれた。

 

「『和魂漢才』とは、日本特有の精神世界と中国大陸に培われた学問を意味する言葉で、この4文字でそれらの調和を表しています。まさに私が目指す料理の姿。この言葉を理想としてこの店を立ち上げたようなものです。一方『真味只是淡』とは、本当の味わいというものは淡さの中に宿っているものですよ、という意味です。私は中国料理を作っていますが、使用する食材は日本産です。風味が身上の国産食材を生かした料理を作るには、この精神を忘れてはならないと思っているんです」。

 

楽しくてならないという感じでニコニコと語ってくれるその様子は、国語学の教授のようでもある。「いつも人から、40代だと思われるんですよね」と照れる37歳の料理長の人柄を表しているようだ。

 

2020年3月に発表された「アジアのベストレストラン50」に再びランクインを果たし、ミシュランの二つ星も健在。「健全な野心」で多少ギラリとした雰囲気を持つシェフも多い中で川田の落ち着きは一見地味にも映るが、料理に対する姿勢を聞けば聞くほど熱くソウルフルな人だということが徐々に理解できてきた。

「茶禅華」のシグネチャー料理のひとつ「雉のスープ」。まるで日本料理の椀もののようにクリアなスープの奥に、深い味わいと哲学が隠れている。 「茶禅華」のシグネチャー料理のひとつ「雉のスープ」。まるで日本料理の椀もののようにクリアなスープの奥に、深い味わいと哲学が隠れている。

「茶禅華」のシグネチャー料理のひとつ「雉のスープ」。まるで日本料理の椀もののようにクリアなスープの奥に、深い味わいと哲学が隠れている。


キャリアよりももっと大切なものに気づいてしまった

ここで、川田のプロフィールをご覧いただきたい。有名店の名が3つ登場するが、最初の10年は四川料理店で修業し、その後の5年は日本料理店に籍を置いた。中国料理と日本料理。同じ料理でありながら、調理法から思考回路までが異なるジャンルであり、28歳でジャンルを変えるというのはすなわち「一からやり直し」を意味する。なぜキャリアをリセットして和食に? 中国料理に嫌気がさしたのだろうか?

 

「その逆です。日本で真の中国料理を作りたいと思ったら、本場の味の再現をひたすら目指しても自分が望む着地点には到達しないのではと、26歳を過ぎる頃から考えるようになりました。休みをとっては大陸を旅し、技法も食材も一生懸命学んできたのですが」。

 

お客様は美味しいと言ってくれても、どうしても納得がいかなくなったのだという。なぜ自分の料理に、自分で合格点を出せないのか。行き着いたのが和魂漢才という言葉。「日本の地で自身の味を昇華させない限り、模倣でしかないのだ」という考えに至り、それには一流の和食店で、日本の食材との向き合い方を一から学ぶしかないと決意したという。
「龍吟」の山本征治氏の元に通いつめて入店を果たし、再び勉強が始まった。コツコツと学んだ経験は実を結び、5年の修業を経て再び中国料理の道に戻ってからの活躍ぶりは多くのファンから支持されている。

 

インタビューの話題は最後まで、東洋の思想と漢字の素晴らしさに終始した。
「淡い、という漢字が大好きです。さんずいと炎、つまり水と火が合わさって生まれるものが『淡さ』。なんと深いのでしょうか。中国料理は火の料理、日本料理は水の料理だと言われます。茶禅華で目指すものはまさにこれ。二つの良さを溶かして一つにしてしまうのではなく、共に生かしつつ新しいものを創造できればと思っています」。

 

川田智也 Tomoya Kawada
1982年、栃木県生まれ。地元の高校を出たあと東京調理師専門学校中国料理専科に進学。在学中から「麻布長江」でアルバイトを始め、卒業後に入社。2010年退社後「龍吟」に入る。2013年、台湾「祥雲龍吟」副料理長に。2016年に退社し、翌年「茶禅華」開店。同年ミシュラン2つ星を獲得。2019年「アジアのベストレストラン」初ランクイン。

 

茶禅華 Sazenka
東京都港区南麻布4-7-5
050-3188-8819(予約専用)
17:00~20:30 (L.O.)
不定休
季節の食材のおまかせコース(約15品)23,000円~、干し鮑を含む季節のおまかせコース35,000円~
*税・サービス料は別

 

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和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

 

 

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