シェフ川副 藍

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未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.4.24

6. 「シュヴァル ドゥ ヒョータン」シェフ川副 藍~元「食べ手」だからこそ伝えたい美味しさの価値

28歳で料理学校入学を決めるに至ったシンプルな理由

レストランのシェフになるのに絶対に必要なものとは何なのだろう。調理師専門学校を出たとか、星付きトップシェフの元で長年の修業を重ねたとか、華やかな経歴はもちろんアドバンテージになるし、実際、そんなエリートコースを歩んできた人が多数派を占めるというのは間違いないが、しかし広いレストラン業界を見渡してみれば、まったく異なる道を歩んだのちにシェフになっている人もいる。池袋のフレンチレストラン「シュヴァル ドゥ ヒョータン」の川副 藍シェフは、まさにそんな人。名門女子大を卒業し金融業界の企業で働きつつ結婚して主婦になって……というコースを辿ったその後、人生の方向変換を行った。「専業主婦になったことで、社会からの評価がいったん途絶えました。主人(現在では店の運営を担うパートナーでもある)はもちろん妻としての私は評価してくれましたが、私にはもう一度、社会から認められる実感が必要だったんです」。

 

人生を賭けてのめり込めるものがほしいと目指したのは、レストランのシェフだった。元々レストラン巡りが本当に好きで、料理人になろう、誰からも愛される料理店を夫婦で経営しようというのは、川副シェフだけでなく夫の川副貴央さんも同様の思いだったという。二人とも金融業界出身で、リーマンショックを目の当たりにした世代。新たな未来を自分たちで築き直そうという理由だった。

ブーダンノワールのパイ仕立て。クラシックな要素、先進的なセンス、しっかりとした骨格を持つ料理の数々は、意欲的に方向性の異なる修業先を選んだことで培われた。 ブーダンノワールのパイ仕立て。クラシックな要素、先進的なセンス、しっかりとした骨格を持つ料理の数々は、意欲的に方向性の異なる修業先を選んだことで培われた。

ブーダンノワールのパイ仕立て。クラシックな要素、先進的なセンス、しっかりとした骨格を持つ料理の数々は、意識的に方向性の異なる修業先を選んだことで培われた。


「美味しいだけが美味しさではない」というメッセージ

自宅に近い池袋で、2012年に創業した。肌感覚で街の雰囲気は理解できており、ならばそこにないものを一つ一つ生み出していけば良いのではという考えだった。もちろん、そのための準備も周到に行い、料理学校を出た後は正統派老舗店、新進気鋭レストラン、ホテル内のメインダイニングで勉強を重ね、毛色の異なるフレンチレストランのどれが自分たちの目指す方向性に近いかを吟味したという。が、それでも順風満帆とは程遠い道のりで、開業8年が経った今になってようやく自分の姿が見えてきた感があると語る。

 

「元々外食が大好きだった私は、割と熱心な“食べ手”だったと思います。しかし、シェフとしての私が今料理をお出しするのは、ありとあらゆる方々。美味しいもののストライクゾーンって、なんと広いのかということがわかりました。後発の料理人としては、あえて“美味しいだけが美味ではない”というメッセージがお伝えできたらと思っています。フォアグラ・トリュフ・オマールといった贅沢な食材だけが記憶に残るような料理ではなく、えぐみが味わいの野草とか、最上部位ではない肉とか、そういう食材を調理によってバランスを整え、完璧ではないものの美味しさや味わい、面白さを表現できたら」。

 

川副シェフのキャリアは、会社員や専業主婦ではなかったのかもしれない。「食べ手」としてのキャリアを「作り手」の立場の強みに変換したマルチプレーヤーとして、今日も厨房で悩み続けている。

川副 藍 AI KAWAZOE

1981年生まれ。東京女子大卒業後、金融業界に従事した後退職。「ル・コルドンブルー東京校」で料理を学び、卒業後に「ランスヤナギダテ」「ラール・エ・ラ・マニエール」「ゴードン・ラムゼイ(コンラッド東京)」で修業。2012年、夫と共に「シュヴァル ドゥ ヒョータン」を開業。

 

シュヴァル ドゥ ヒョータン
東京都豊島区西池袋3-5-7 ウィルコート1F
03-5953-3430 (電話での予約時間14:00-18:00/22:00-24:00)
11:30~13:30(L.O.)・18:00 ~23:00(Food L.O. 21:00 / Drink L.O. 22:00)
水曜定休
ランチ
Menu de Jour 2,500 円・Menu de Hyotan 3,500 円・Menu de Cheval 5,800円
ディナー
Cours de la Mer 6,300円・Cours de Dégustation 9,400円(事前に予約が必要)
*すべて税込み価格
*ディナーはコースだけでなくアラカルトも可能。

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和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

 

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