シェフ篠原裕幸

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未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.4.6

3. 「ShinoiS」シェフ篠原裕幸~20年、模索し続けて掴んだスタートポジション

迷わず中国料理のシェフを目指し、なってからは自問の日々

言葉を発する前に、決まって一瞬、間を置く。自らに確認するかのように一言一言を慎重に紡ぎだすような感じで話をする、それが「ShinoiS」のシェフ、篠原裕幸という人だ。2019年11月、白金台に席数11というこぢんまりとした中国料理店を開業した。一見、気難しい人だと思われることもありそうに見えるが、話してくれた内容は20年に及ぶ模索とチャレンジの日々であり、熱いハートの持ち主でないと歩いてはこられなかっただろうと思わせるものだった。

 

「幼稚園の時から家族で囲む中国料理店に憧れを持っていました。高校3年生の夏休みに見聞を広めようと一人で海外旅行に出たんです。行き先は香港。一週間、食に没頭する時間を過ごし、自分が進む道は広東料理だと悟り、卒業後は迷わず調理師学校に進みました」。しかし、篠原シェフが迷わなかったのはここまでだ。有名店の厨房で実務経験を経て、その後は東京赤坂にある席数が多い高級中国料理店に進んだ。以降、個人が経営する中国料理店、メガホテル内にある店、香港や上海の人気店……、あらゆる店で腕を磨いた。「料理の腕は確かに上達したかもしれません。しかし、それ以外に見えてきた“現実”に悶々とする日々でもありました」と、当時を振り返るご本人。

中央左がシグネチャー料理「真味干鮑」。従来、様々な出汁や食材で煮込み味を重ねて仕上げる料理だが、一つ一つ味を引いた結果、水だけで煮込む究極の味が完成した。 中央左がシグネチャー料理「真味干鮑」。従来、様々な出汁や食材で煮込み味を重ねて仕上げる料理だが、一つ一つ味を引いた結果、水だけで煮込む究極の味が完成した。

中央左がシグネチャー料理「真味干鮑」。従来、様々な出汁や食材で煮込み味を重ねて仕上げる料理だが、一つ一つ味を引いた結果、水だけで煮込む究極の味が完成した。


クロスオーバーな中国料理が、なぜ存在しないのだろう

中国料理に限った話ではないが、レストランの経営というのはシンプルなようで難しい。一般の人は「シェフと客」という分かりやすい需要と供給の関係を思い浮かべるのだが、実際にはシェフの周りにはオーナー、ソムリエ、マネージャー、モノ言う上顧客と、さまざまな関係性が入り組んでいることもままある。篠原シェフの場合、悩みの元となったのは人間関係ではなく、雇われている限り逃れることはできない料理への制約であった。

 

「今では状況は違うのかもしれません。しかし、私は常に自分が作る料理に対して最高に満足だとは思えずにいたんです。自由な時間が多く働きやすいレストランでも、使用する調味料まで厳密に指示があったり、シェフの私が不要だと思っても、さらに味を濃くするようなことも求められました。繁盛していても、自分の料理には個性がないのではという漠然とした思いが消えませんでした。何が違うんだろう、なぜ自分は満足できないんだろうと考え続けた挙句、新しいことがやりたいと思っている自分に気づいたんです」。篠原シェフが見つけた答え、それはクロスオーバーする新しい料理の創造だった。フランス料理を例に挙げると、時に和食の調味料を用いたりイタリアンの手法を入れたりといったイノベーティブな工夫は今や珍しいことではない。しかし、中国料理の場合は違う。「例えば広東料理と四川料理は、永遠に交わることはありません。けれど、なぜやらないのだろうと。様々なエッセンスを取り入れた中国料理をやりたいと決意して、ようやく霧が晴れる気がしました」。

 

「ShinoiS」の料理は、伝統的な中国料理の香りを残しつつもイノベーティブなメッセージ性があり、どれも調味料より素材の味わいの印象が残る。ようやくリラックスした篠原シェフが、まだなおも純粋に悩みながら完成させる新しい解釈の中国料理が今後どう評価されていくかで、未来にも変化が生まれそうだ。

篠原裕幸 HIROYUKI SHINOHARA 

1981年生まれ。調理師学校卒業後、「赤坂璃宮 本店」「ヘイフンテラス(ペニンシュラ東京)」「ロウホウトイ」で修業したのち、香港でも経験を積む。帰国後に「海鮮名菜 香宮」料理長就任。その後再び海外で腕を磨いた後、帰国。2019年「ShinoiS」開業。

 

ShinoiS(シノワ)
東京都港区白金台4-2-7 bld桜なみき2階
電話番号:非掲載(予約は予約専門サイトOMAKASEから)
17:00〜21:00入店
不定休
ディナー「季節のおまかせ(干し鮑含む)」28,000円(ともに税・サービス料別)
※その時々の季節の食材によって値段が上下する可能性あり。

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和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

(敬称略)

 

Text by Mayuko Yamaguchi

 

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