長谷川在佑

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.3.31

1. 「傳」長谷川在佑~世界の食通に愛される日本料理店が最も大切にするもの

和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

「料理人が考えさせられる時」が来てしまった

2020年3月24日、新型コロナウイルスの影響を受け、異例のオンラインストリーミングでの世界同時発表となった「アジアのベストレストラン50」において、2018年以来3年連続で日本のレストラン勢の中でトップとなった「傳(でん)」。全体の順位では昨年に続き3位をマークし、発表された瞬間、「今年こそ」の思いでその時を待っていた「傳」の多くのファンはため息をついたが、しかし当の本人である長谷川在佑シェフの顔に浮かんでいたのは順位ではないことに起因する複雑な表情だった。

 

「今や新型コロナウイルスは世界を巻き込んでの由々しき事態ですから、飲食業界にとっても明日を左右する大問題です。もちろん、順位に興味がないことはないですよ。しかし正直、自分の順位よりも他のレストランのアップダウンに気を取られていましたね。頑張ったから上がるとか、気を抜いたから下がるとか、そういう風にいかないのが『アジアのベストレストラン50』です。選んでいただく立場から言えば、このコンペティションは自身を見つめ直す場だと思っています」。

 

毎年、表彰の壇上には店のスタッフ達と共に上がり、満面の笑顔で会場中に元気を与えてくれるのが長谷川の常だったが、今年は会場入りの人数にも制限が設けられた結果、一人での受賞。「ちょっと寂しいですね」と笑う。最も客に喜ばれ温かいサービスをする店に与えられる「アートオブホスピタリティー賞」を、「アジアのベストレストラン50」「世界のベストレストラン50」の両大会で受賞した世界で唯一の人らしい。
長谷川曰く、「料理人が考えされられる時が来たのだと思う」。どういうことなのだろうか。

傳サラダ 傳サラダ

シグネチャーの「傳サラダ」。にぎやかなサラダの中に笑顔やおどけ顔の表情を刻んだにんじんがトレードマーク。ひとつひとつの食材に手間がかけられていることは、一口食べるとすぐにわかる。


「料理店にブランディングなんて不要」と断言

2008年、自身の店「傳」を構えたのが28歳の時だった。以来12年、走り続けてきた。こう言われると本人は嫌がるが、「超予約困難店」としての歴史も長い。この店の圧倒的な人気を支えるものは、徹底して丁寧に作られる料理の味もさることながら、店と客との独特の距離感にある。常にワイワイと賑わっていて、初めて訪れる人でも必ず退店するまでに「自分はなんと大切にされているのだろうか」と感動する瞬間があり、ホカホカとした気持ちで思わず次の予約を入れてしまうのだ。昨今の和食人気で、客単価が5万円を超える店もザラだというのに「傳」はそうならない工夫を常にしている。

 

長谷川は言う。「僕は店のスタッフ達に料理の真髄を教えようなんて思っていません。それならもっと適した素晴らしい店がたくさんある。でも、お客様に可愛がっていただける方法なら伝えられます。コンセプトやストーリー作り、ブランディングが徹底的に練られた次世代レストランもすごく魅力的だと思いますが、『傳』にそれは必要ない。後からついてくるものだと僕自身が考えているからです」。

 

3年連続で日本のレストランの頂点を守っているが、本人は「前の日の自分よりダサくなければそれでいいです」と言い切る。それよりも今は、日本の食材資源の素晴らしさ、それらが脅かされる環境への憂慮、新型コロナウイルスで活況を失う飲食業界のことなど、心を占める問題は山ほどある。もちろんそのうちの一つは常に、大切なお客様が次回来た時にもっと喜んでもらうにはどうすれば良いかだ。

 

世界でも最も先進的なレストランアワードと呼ばれる「ベストレストラン50」。が、そのトップランナーの一人である長谷川の想いは、自身よりもシェフ仲間たちへと向かっている。「世界中の料理人が、みんな笑顔で営業できる日が早く戻ることを祈ります」と、晴れの日の壇上で、トロフィーを胸に語る姿が印象的だった。

長谷川在佑 ZAIYU HASEGAWA
1978年生まれ、東京出身。高校卒業後に老舗割烹「うを徳」で修業。2008年「傳」を開店。2016年、神宮前に移転する。同年「アジアのベストレストラン50」に37位で初登場。2018年「世界のベストレストラン50」では17位に。気取らない料理と人柄、斬新な演出が常に人気。

 

傳 Den
東京都渋谷区神宮前2-3-18 建築家会館JIA館
03-6455-5433
18:00~23:30(L.O.22:30)
日曜定休
おまかせコースのみ 16,000円
*税、サービス料別

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

 

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当サイトに掲載しているレストラン情報の内容が変更になっている可能性があります。公式サイトなどから最新情報をご確認ください。

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新…

Premium X

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。