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アートか工芸か。日本のハイジュエリー

2019.10.4

2. ラリックを追う妙なるエナメル使い
「In The Garden」の技

トンボの羽の膜をプリカジュールで表現している「オニヤンマ」のブローチ。リアルで、優美さをもつジュエリーに仕上げている。ポエジーが漂い、物語が立ち上がるような美しさ。
ブローチ。K18・赤銅・プリカジュールエナメル・ダイヤモンド。参考商品。

ダイナミックなデザインと技巧が特徴だと言われる、欧米のハイジュエリー。翻って、日本のジュエリーには、「繊細」な感性を宿すデザインと、磨き上げられた「緻密さ」という技がある。アートとも、工芸とも評される日本のハイジュエリーが生み出す、心が透過されていくようなジュエリーの輝き。Premium Japanが厳選したブランドを紹介していく。

ラリックを手本に、繊細さを極めるエナメルの技

「In The Garden」(イン・ザ・ガーデン)のジュエリーの特徴は一目でわかるように、光を透過するステンドガラスのような細工にある。これはプリカジュールというエナメル技法の一つで、アール・ヌーヴォーの代表的芸術家ルネ・ラリックの作品で一躍有名になった。エナメルは世界中に多様な方法があり、日本では花器や小箱に模様を描く際に有線七宝、透胎七宝、省胎七宝などが用いられるが、西洋のものとは技法が少しずつ異なる。

 

ジュエリーはエナメルを施す前の段階、金属工芸の部分がどれほど繊細に作られたかによって出来上がりが左右される。まずデザインに合わせて、糸ノコで貴金属に透かし模様を施していく。余分な地金をそぎ落として空枠が出来上がったら、七宝の釉薬をのせ、炉の中で高温で焼成する。焼き上がったら取り出し、余分な釉薬をそぎ落とすという工程を何度も繰り返す。色数が増えれば焼成の回数も増え、焼いている間にパーツが壊れたり、出来上がっていた部分にヒビが入ったり、最後まで気が抜けない仕事だ。

「サクラ」ブローチ。K18・プリカジュールエナメル・コンクパール・ダイヤモンド。 「サクラ」ブローチ。K18・プリカジュールエナメル・コンクパール・ダイヤモンド。

桜の葉の白から淡いグリーン、ピンクに移り変わる部分に注目。ドロップシェイプのコンクパールがアクセントになっている。「サクラ」ブローチ。K18・プリカジュールエナメル・コンクパール・ダイヤモンド。参考商品。


センターのスピネルの回りにプリカジュールでデザインを施した、艶やかなリング。 センターのスピネルの回りにプリカジュールでデザインを施した、艶やかなリング。

センターのスピネルの回りにプリカジュールでデザインを施した、艶やかなリング。
写真左 「ロータス」リング。K18・プリカジュールエナメル・スピネル・ダイヤモンド・ピンクサファイア。参考商品。
写真右 「オレアンダー(キョウチクトウ)」リング。K18・プリカジュールエナメル・スピネル・ピンクサファイア・ダイヤモンド。参考商品。

ニックス・ファクトリーの代表、中嶋邦夫は錺(かざり)職人の家に生まれ、千總ジュウリーデザインスタジオ制作室長を務めた。1992年東京国立近代美術館で開催された「ルネ・ラリック展」を見て衝撃を受け、文献を読みあさり技術を研究するようになる。さらに日本の七宝作家、並河靖之と濤川惣助の陶磁器を見て、徹底的に表現方法と技術を追求していった。「イン・ザ・ガーデン」は海外で評判を得て、2001年ベルギー・ブリュッセルを拠点にヨーロッパで販売を開始、2013年に中嶋は“Russian Academy of Arts(ロシアン・アカデミー・オブ・アーツ)”の名誉会員の称号を授与された。フランスで人気を博した技法だが、今日、世界中を見渡しても「イン・ザ・ガーデン」ほど細やかプリカジュールを実現できるところはなく、アンティークジュエリーと比べても引けを取らない。100年後にも残る作品である。

 

(敬称略)

In The Garden
ニックス・ファクトリー

http://www.nicks-factory.co.jp/

Text by Ikuko Watanabe (INK inc.)
photography by ©Nick’s Factory

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