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尾上菊之丞日記~よきことをきく~

2024.5.21

尾上菊之丞日記特別編~菊之丞さんと新橋の芸者衆「東をどり」お稽古レポート

「尾上菊之丞日記~よきことをきく~」の今回は趣向を変え、5月24日から新橋演舞場にて開幕する「東をどり」を目前にした、白熱するお稽古の様子を、Premium Japan編集部がレポート。尾上菊之丞さんと新橋花柳界の見番の様子をお届けいたします。


昼下りの銀座に響く、三味線と太鼓の音色

 

5月半ばの昼下り、銀座8丁目界隈では、どこからともなく太鼓と三味線の音色が聞こえていました。高級ブランドのブティックが建ち並ぶ銀座で、懐かしい「和」の音が響いているのは、「見番」と呼ばれる、新橋花柳界の組合事務所があるからです。

 

 

見番には、花道も備えた舞台がある稽古場が設けられています。その舞台では、5月24日から新橋演舞場で開催される「東をどり」の稽古が行われていました。太鼓と三味線は、この舞台から銀座の街に響いていたのです。



菊之丞さんが総合演出を担当する今年の「東をどり」のテーマは「白」

 

「東をどり」に立方(踊り手)として出演する芸者さんをはじめ、長唄と清元、そして囃子のいわゆる「地方(じかた)」と呼ばれる演奏を専門にする芸者さんも加わり、舞台を囲むのはおよそ20名。ほぼ10日後に迫った本番を前に、稽古に熱が入ります。

 

 

尾上菊之丞さんは、稽古場の舞台正面に座り、身振り手振りを交え、ときには自ら舞台に立ち、振りの稽古を付けています。新橋花柳界は、花柳、西川、尾上の三流派の家元が踊りの指導をしています。東をどりでは、年ごとにひとりの家元に総合演出をゆだねており、今年は尾上菊之丞さんが構成と総合演出を担当。99回目を迎える今年のテーマは「白」だそうです。

 

 



菊之丞さん 菊之丞さん

立ち上がり、身振り手振りで芸者衆にアドバイス。三味線の音に負けぬよう、菊之丞さんの声も自ずと大きくなる。

菊之丞さん 菊之丞さん

時には、菊之丞さん自ら舞台にあがって、細かく指導します。芸者衆の眼差しも真剣そのもの。

「百回を来年に控えるということで、今年は『百』から一つ引いた『白』をテーマとし『白花繚乱』と名づけました。私が振付する二幕は『お好み 新橋 白花繚乱』とし、「白扇」「白酒売」「共白髪」「滝の白糸」「会津の白百合」「白雪」「白藤」と、文字通り「白」をモチーフとした演目が並びます。古典曲からの抜粋や新曲など、二幕の演目はさまざま。まさに『お好み』です」




「慌てないで、大きくゆったり振って」
見番に響く菊之丞さんの声

 

稽古場では、「共白髪」のお稽古の真っ最中です。浦島太郎の物語に題材をとった演目で、太鼓の合図とともに、翁と媼役の先輩芸者を取り囲むように、7人の若手芸者が舞台に現れ、白浪に見立てた晒(さらし)を両手で振ります。

「慌てないで、大きくゆったり振って」

菊之丞さんの声が掛かります。

手振りを入れながら、「はっ、はっ」と大きな声で拍子を取る合図も混じります。

7人の芸者によって晒が優雅に振られる様は、まさに白の世界。三味線がそこに加わり、本番さながらの熱気です。


共白髪 共白髪

「『地合わせ』は、踊り、長唄、清元、囃子のお師匠さんが揃い、その前で踊るので緊張します」と、ある若手芸者。



芸者衆立方と地方が初めて揃って稽古をする「地合わせ」

 

「今日行われているのは『地合わせ』です。立方は立方で振りを、地方さんは地方さんで三味線や唄を、今まではそれぞれが別々に練習してきたものを舞台で合わせるのが『地合わせ』で、じつは今日が初めてです」

 

「4月のはじめくらいからそれぞれに稽古していますので、現段階で立方も地方も、ほぼ仕上がっている状態。でも、実際に舞台に立ち、お互いが顔を合わせて練習すると、タイミングや間の取り方など、微妙な調整が必要で、そのために本番まで、あと2~3回は『地合わせ』を行います」




芸に精通した者同士だけがわかる阿吽の呼吸

 

「共白髪」の稽古が終ると、「会津の白百合」「白藤」と演目の順に沿って、淀みなく稽古が進んでいきます。

稽古で合わせていくのは、芸者さんたちの振付けだけではありません。長唄と囃子の師匠も同席しているので、囃子の入るタイミングやキッカケ(呼吸)なども調整していきます。ただ、そこに長い会話は交わされません。芸に精通した者同士だけがわかる、ほんの一二言だけの、阿吽の呼吸で物事が進んでいきます。

 

12時過ぎから始まった「地合わせ」は、2時間半ほどで一通りの演目が終わりました。芸者衆は舞台に座り、お師匠さんたちに「ありがとうございました」と綺麗な挨拶をし、舞台を降ります。聞けば、今日もこの後にお座敷に出る芸者もいるとのことでした。

 




「お座敷のふんわりとした柔らかな雰囲気を舞台で味わっていただけたら」

 

「地合わせ」が終った後、ひとりの芸者さんにお話をおうかがいしました。多くの演目で芸者衆の中央で踊る、尾上流の喜美勇さんです。

 

「私たち芸者衆の踊りは、歌舞伎役者さんや舞踊家さんの踊りとも違う、お座敷のふんわりとした雰囲気や、自然で美しい所作を感じさせる踊りです。決まり事のかちっとした部分ももちろんありますが、自然な流れのなかで出てくる、お座敷での一連の動きを思わせるような柔らかさを見ていただければ、と思います」

 

 


喜美勇さん 喜美勇さん

「滝の白糸」を踊る喜美勇さん(手前)。

「そして、自分としては、景色や情感を出すように心がけています。覚えた振りをなぞるのに一生懸命にならずに、その演目の世界、景色や情感までお客様に伝えたいと思いながら踊っています。

稽古場での時間だけがお稽古でありません。普段からいつも手の届くところにお扇子を置き、ふと気になったときはいつでも自分で振りを確かめています。

日常生活でもふと、振りを確かめたりしていますよ」


喜美勇さんと菊之丞さん 喜美勇さんと菊之丞さん

喜美勇さんは尾上流、菊之丞家元に師事。厳しいお稽古の後、お話しを伺うときの表情の柔らかさにドキッと。


「新橋演舞場が大きな料亭となり、そのお座敷で芸者衆が踊ります」

 

師匠の菊之丞さんが、喜美勇さんの言葉を補います。

 

「『お座敷のふんわりとした雰囲気』と喜美勇さんが言うように、『東をどり』の第二幕は、新橋演舞場が、大きな料亭となり、その料亭のお座敷で芸者衆が次から次へと踊りを披露する、というイメージです。ですので、歌舞伎の舞台とも違う、柔らかで少し砕けた雰囲気を味わっていただきたいです」

 

「また、今年に限っていえば、全体を通して白が視覚的にも目立つ舞台ですので、全員が黒の引き着で登場するフィナーレがいっそう際だってくると思います。そのコントラストも楽しみにしてください」

 

本番まであとわずか。銀座8丁目界隈を歩いていて、もし三味線や太鼓の音が聞こえてきたら、ビルの中では、芸者衆が最後のお稽古に精魂を込めているはずです。



東をどりフィナーレ 東をどりフィナーレ

まさに百花繚乱、新橋芸者が居並ぶ「東をどり」圧巻のフィナーレ。




江戸の粋 日本の綺麗「東をどり」開幕

東をどりポスター 東をどりポスター

第99回東をどり 新橋演舞場
5月24日、25日、26日、27日 4日間 全10回公演
壱の回(24日、27日を除く)11:00開演
弐の回  13:40開演
参の回 16:20開演

東をどりの公式サイトはこちらをクリック

一見さんもお大尽気分で、新橋演舞場が大料亭に。5月24日から27日までの4日間、第99回東をどりが今年も開幕です。新橋芸者は、尾上流、西川流、花柳流、三流の家元の直弟子。今年は尾上流家元・尾上菊之丞が総合プロデュースします。芸者衆の晴れ姿、二幕の舞台をご堪能ください。芝居前や幕間も新橋の料亭のお弁当(要予約)、日本酒やシャンパンのブースなど美食の愉しみも。ひときわ華やいだ新橋演舞場へ、お越しください。




取材/写真協力:東京新橋組合
Photography by Toshiyuki Furuya





尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

 

1976年3月、日本舞踊尾上流三代家元・二代目尾上菊之丞(現墨雪)の長男として生まれる。2歳から父に師事し、1981年(5歳)国立劇場にて「松の緑」で初舞台。1990年(14歳)に尾上青楓の名を許される。2011年8月(34歳)、尾上流四代家元を継承すると同時に、三代目尾上菊之丞を襲名。流儀の舞踊会である「尾上会」「菊寿会」を主宰するとともに、「逸青会」(狂言師茂山逸平氏との二人会)や自身のリサイタルを主宰し、古典はもとより新作創りにも力を注ぎ、様々な作品を発表し続けている。新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」「刀剣乱舞」、日本舞踊界初の全編屋外撮影による映像作品「地水火風空そして、踊」、古典芸能に留まらずアイスショー「氷艶」「LUXE」などの演出・振付を勤める。また日本を代表する和太鼓奏者、林英哲氏をはじめとして様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションにも積極的に挑戦している。

 

「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。










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