ルムーリスの屋上ルムーリスの屋上

Lounge

Premium Salon

By Executives プレミアムジャパンに集うエグゼクティブたちのブログ

2022.5.2

中村孝則/フランス最高峰のホテル パリ「 ル・ムーリス」探訪

ル・ムーリスの見事な屋上庭園は、1907年の大改装で誕生した。このホテルの見どころのひとつである。

「パラス・ホテル」とはいかなる称号か。
フランス最高峰のホテル ル・ムーリス(Le Meurice)探訪

 

文・中村孝則

 

 

フランスのホテルには、5つ星のさらに上位に格付けされる、“パラス(palace)”と呼ばれるホテルが存在する。「パラス」の称号は、フランスの政府観光局などの諸機構によって認定される、国による格付けのひとつである。この「パラス」の格付けの認証プログラムは、2009年にフランス国内の5つ星ホテルの中でも、特に優れた施設を認定するために、フランス政府によって正式に創設されたものである。なので、いくら豪華なホテルであっても、フランス国内においては、自ら勝手に「パラス」を名乗れるわけではない。

 

 

「パラス」の称号を得るには厳しい審査をクリアしなくてはならず、一説には二次審査まであり、歴史的建造物であることのほかに、ホテル内にミシュランの星付きレストランを備えることや、一部屋あたりの従業員数が2.75人以上いるなどと噂されるが、フランス政府観光局のオフィシャルの資料によると、●立地のよさや歴史的・美的あるいは文化遺産としての価値  ●利用客のニーズに対応したサービス ●フィットネス施設やスパがあること ●多言語を話すスタッフがいること ●コンシエルジュ・サービスがあること ●美食が堪能できるレストランがあること ●環境への配慮ができていること、などを挙げている。そして、任命を受けた著名人からなる委員会が、それらのすべての評価項目に照らして意見を表明し、選出されるという。2022年4月現在、フランス国内には31軒のホテルがパラスの称号を得ているが、そのうち半数ちかくがパリにある。

 

 



ル・ムーリス ル・ムーリス

チュイルリー庭園から眺めるル・ムーリス。ル・ムーリスの建物は、1811年に当時の著名な建築家、シャルル・ペルシェ(Charles Percier)とピエール・フォンテーヌ( Pierre Fontaine)によって建築された。



パリのル・ムーリス(Le Meurice)は、その代表的なホテルである。ル・ムーリスの歴史は1800年代の初頭まで遡る。1806年にチュイルリー庭園の前にリヴォリ通り(Rue de Rivoli)が敷かれると、1811年にはその通りに沿って巨大で優美なアーケードが建設される。その後1835年、ル・ムーリスはその建物を豪華なホテルとして誕生。元の所有者であるシャルル-A・ムーリス(Charles-Augustin Meurice)にちなんで、その名が付けられた。ちなみにシャルル・ムーリスは、ドーバー海峡の街のカレーに宿を持っていたこともあり、彼のビジョンはパリに訪れた英国人のための魅力的な宿を提供することだった。

 

 

ル・ムーリスは、各国のロイヤル・ファミリーを顧客に持っているが、最初に正式訪問したのは英国のヴィクトリア女王で、1855年に滞在した。当時、彼女への敬意を評して、一階部分を大改装したという記録がホテルの資料に残っている。1907年には、二年間の大改修が行われ、すべての客室にバスルームを備えたパリ初のホテルになり、現在のレストランや屋上庭園もこの時誕生した。2007年には、フィリップ・スタルクとの協働で、大きなリニューアルが施されている。そして、2011年の公式発表において、フランスで第一号の「パラス」の称号を与えられた。2019年には、ペントハウススイートを含む49部屋の改修を実施し、クラシックななかにもモード感溢れる演出を加え今に至っている。

 

 

先ごろ、そのル・ムーリスに実際にステイしてきたのでレポートしてみたい。筆者にとっては久しぶりの訪問であり、そのリニューアル後の初体験となった。



あらためて申し上げることではないが、ル・ムーリスのロケーションは、パリを楽しむうえで絶好の位置にある。チュイルリー庭園の目の前ということもあり、徒歩で圏内を散歩するだけでパリ気分を満喫でき、ルーブル美術館やオルセー美術館も間近にある。ホテルの一階から続く約200年前に建造された長いファザードは、風雨にさらされることもなく、ウインドーショッピングも楽しむこともできる。そのファザードからホテルのエントランス、そして内部に続く雰囲気も、200年の歴史の重厚感を体感でき、旅情を盛り上げてくれる。これは、新しいホテルでは決して味わえない魅力であろう。

 

 

クラシック・モダンの美しいゲストルーム

 

筆者がステイした客室は、チュイルリー庭園に面していて、窓からはエッフェル塔が臨めた。2019年にリニューアルが施された部屋のひとつということで、使い勝手の工夫はもちろん、内装や調度品の演出もモダンにリノベーションされている。特に、家具やバスルームに大理石を施す、クラシック・モダンな美的な演出が気に入った。アメニティなどのセレクトも細やかで、洒落ているのであった。



チュイルリー庭園を望む客室 チュイルリー庭園を望む客室

チュイルリー庭園に面した客室からは、エッフェル塔を含めた景色が楽しめる。外に大きく開かれた窓は、パリの景観と一体になり、臨場感を盛り上げてくれる。


客室 客室

2019年のリニューアルでは、49室がリノベーションされていて、部屋ごとにそれぞれ個性的なデザインに仕上げられている。



ガストロノミーも期待できる
「ル・ムーリス・アラン・デュカス」の存在

 

 

ル・ムーリスは「パラス」の称号に違わず、ガストロノミーの領域においても力を入れている。一階のメインダイニング「ル・ムーリス・アラン・デュカス」は、文字通り、アラン・デュカスが2013年から監修をしている。2020年の春からは、アモリー・ヴウール(Amaury Bouhours)がシェフに抜擢され、その手腕を振う。

 

 

特筆すべきは、エグゼクティブ・パティスリー・シェフのセドリック・グロレ(Cedric Grolet)だろう。彼のつくるスイーツは、その斬新なアイデアと表現力で、美食業界を驚かせている。彼の代表作の「ルービックス・ケーキ」や、本物のレモンのように細密に作り込まれた「レモンのケーキ」などは、美味しだだけでなく、伝統的なフランス菓子の概念すらくつがえす革新に溢れている。その表現力が評価され、2018年の「世界のベストレストラン50」では、ベスト・パティシエ賞を受賞している。現在、彼のInstagramは240万人近いフォロワーを誇っているが、機会があればぜひ、その斬新さをご覧いただきたい。彼のスイーツが目当てで、このル・ムーリスを訪れるゲストも多いそうである。



メインダイニング「ル・ムーリス・アラン・デュカス」 メインダイニング「ル・ムーリス・アラン・デュカス」

ヴェルサイユ宮殿の平和の間にインスパイアされたという、一階のメインダイニング「ル・ムーリス・アラン・デュカス」は、高い天井の絢爛な空間。特に、午前中の光が素晴らしい。


自家製フレンチ・トーストを食すためにステイしたい
「ル・ムーリス・アラン・デュカス」で朝食を

 

ホテルの滞在中で、筆者が感銘をうけたひとつは、一階の「ル・ムーリス・アラン・デュカス」の空間で味わえる朝食である。ヴェルサイユ宮殿の平和の間に影響されたといわれる絢爛豪華な空間は、天井に細密なフレスコ画が描かれ、チュイルリー庭園にむけ大きく窓が配されている。2016年に、フィリップ・スタルクにより、さらなる演出が加わったためか、古くささをまったく感じない。夜のシャンデリアによる雰囲気も素晴らしいが、この空間の美を堪能するのであれば、がぜん午前中の光の方がいいと思う。

 

 

朝食のメニューのバリエーションも豊富であるが、個人的なオススメは自家製でご自慢のフレンチ・トーストである。写真のように円形の形状のパンを用いているのが特徴的で、中央部にはバニラの効いたクリームが添えられている。ややキメの細かいパン生地には調味液が程よく染み込み、表面はカリッと焼かれていて、食感のコントラストも楽しい。一人前の分量もたっぷりあり、これを朝食で食すためだけに、このホテルにステイしてもいいと思うほどであった。



朝食の自慢の一品がこのフレンチ・トースト。特別に焼かれているという円形のパンを使った個性的なかたち。上品な甘さやバニラが効いた香りも素晴らい。外側は香ばしく焼かれ、中のふわふわ加減とのコントラストも楽しい。 朝食の自慢の一品がこのフレンチ・トースト。特別に焼かれているという円形のパンを使った個性的なかたち。上品な甘さやバニラが効いた香りも素晴らい。外側は香ばしく焼かれ、中のふわふわ加減とのコントラストも楽しい。

朝食の自慢の一品がこのフレンチ・トースト。特別に焼かれているという円形のパンを使った個性的なかたち。上品な甘さやバニラが効いた香りも素晴らい。外側は香ばしく焼かれ、中のふわふわ加減とのコントラストも楽しい。



ホテルのスタッフたちのホスピタリティも、各セクションにおいて、老舗らしく気品に満ちていて、さすが「パラス」と唸ることが多かったが、このプレミアムジャパンとして書き加えるべきは、日本人コンシェルジュの木村大介氏だろう。木村氏は、フランス国内の若手コンシェルジュの大会で優勝した経歴を誇り、ル・ムーリスの顔としても、常連客からもと高い評価を得ている人物である。彼のインタビューなど、いつかお届けしたいと願っている。

 


◆ル・ムーリス(Le Meurice)
日本での問い合わせ ドーチェスター・コレクション予約センター 0120-914-084


中村孝則 Takanori Nakamura 中村孝則 Takanori Nakamura

Profile

中村孝則 Takanori Nakamura

コラムニスト。神奈川県葉山町生まれ。ファッションやグルメやワイン、旅やライフスタイルをテーマに、新聞や雑誌やTVで活躍中。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)、共著に『ザ・シガーライフ』(オータバブリケーションズ)などがある。


最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Lounge

Premium Salon

By Executives プレミアムジャパン…

Premium Salon

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。