ファラシュテと初めて出会ったとき。体重計を出して道ゆく人からお金をもらっていた。ファラシュテと初めて出会ったとき。体重計を出して道ゆく人からお金をもらっていた。

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柴田裕介がプロデュースする日本工芸の美意識と奥ゆき

2020.6.18

2. フォトグラファー須田卓馬がライフワークとするレンズの向こう

ファラシュテと初めて出会ったとき。体重計を出して道ゆく人からお金をもらっていた。

世界で出会ったアジアの人々の撮影をライフワークとしている、フォトグラファー須田卓馬。中でも17年間撮影し続けているのが、イランの街角で出会った少女ファラシュテ。須田の写真からは被写体の心の内が映し出され、私たちに多くを語りかけているように感じる。HULSの柴田裕介が運営するウエブサイト「KOGEI STANDARD」では、須田が捉えた職人の姿が魅力的に表現されている。

 

文・須田卓馬

私は人物写真専門のフォトグラファーとして活動しています。独立して今年で14年。今まで夢中で写真を撮ってきました。私の写真との出会いは高校生の頃でした。夏休みに書店で出会った沢木耕太郎著「深夜特急」。衝動的に旅に出てから大学を卒業するまで、長期休みの初日には船や飛行機に飛び乗っていました。リュックひとつ背負い1ヶ月、2ヶ月旅をしました。荷物の半分くらいはフィルムが詰まっていて、旅の目的は徐々に写真を撮ることになっていました。

アフガニスタンの都市、ヘラートの料理人。油で曇った窓から柔らかい光が注いでいた。 アフガニスタンの都市、ヘラートの料理人。油で曇った窓から柔らかい光が注いでいた。

アフガニスタンの都市、ヘラートの料理人。油で曇った窓から柔らかい光が注いでいた。

旅の中で私は、段々と人を撮ることに夢中になりました。視点が変われば出会いも変わるものです。大学最後の冬休みに、私はある出会いをします。イランのマシュハドという街の路上で働く一人の少女を見つけました。なぜか彼女の姿に心を奪われ話しかけました。少女の名前はファラシュテと言って、ペルシャ語で天使という意味でした。歳は7歳、アフガン難民の子供でした。それからその街を離れるまでの2日間、ファラシュテに会いにいきました。いつしか私は、ファラシュテが大人になった姿をみたいと夢見ていました。


18歳に成長したファラシュテ。 18歳に成長したファラシュテ。

18歳に成長したファラシュテ。

あれから17年。私とファラシュテとの友情は未だに続いています。ファラシュテは23歳になり、奨学金をもらい大学を卒業しました。その間、私はカメラマンのアシスタントを経て独立し、写真は仕事になりました。今も定期的にイランに通い、写真を撮り続けています。ファラシュテの撮影は私の写真人生の大きな柱となっています。

 

遠い海の向こう。「難民」という漠然としたイメージしかなかった頃と比べて今、ファラシュテや海の向こうに暮らす人々は確実に体温を持ったものとして私の中に存在しています。
現在、私は主に東京で人物を撮影しています。またそれと並行し、「KOGEI STANDARD」というウエブサイトで日本の工芸の産地も撮影しています。この工芸の撮影は、ファラシュテの撮影と同じく私のライフワークになりつつあります。

KOGEI STARTEDで撮影。桶栄。職人の手はとても雄弁だ。 KOGEI STARTEDで撮影。桶栄。職人の手はとても雄弁だ。

KOGEI STARTEDで撮影。桶栄。職人の手はとても雄弁だ。

このサイトは、海外に住む外国人に向けて日本各地の工芸を紹介しています。「KOGEI STANDARD」の生みの親である柴田さんは、その中でも特に工芸品を作る人とストーリーにフォーカスしたいと考え、人物写真が専門の私に撮影を依頼してくれました。以来、日本各地を飛び回り撮影をして来ました。作り手の想いを聞き、仕事を見せて頂きました。私は出来る限り、工芸品を作る人たちの表情を捉えようとシャッターを切って来ました。今まで漠然と使っていた工芸品に温もりを感じた感覚は、かつて旅をして得た感覚に通じるものがありました。


KOGEI STARTEDで撮影。甚秋陶苑の伊藤成二の真剣な眼差し。 KOGEI STARTEDで撮影。甚秋陶苑の伊藤成二の真剣な眼差し。

KOGEI STARTEDで撮影。甚秋陶苑の伊藤成二の真剣な眼差し。

今はこの先、私が感じたように、写真を通して遠く離れた人や物の魅力をより多くの人にリアルに伝えていくことが目標です。それにファラシュテや工芸に出会えたように、この先どんな更なる出会いがあるのか何より私が楽しみにしています。

 

(敬称略)

 

→3. 木地師であり漆芸家、田中瑛子の感性が美へと昇華するとき

須田卓馬 Takuma Suda 須田卓馬 Takuma Suda

Profile

須田卓馬 Takuma Suda
フォトグラファー
東京出身。ファッションフォトグラファーCassio氏に師事。2007年に独立。現在は、主に雑誌、ウェブなどでポートレートを中心に撮影。17年間に渡り、ライフワークとしてイランに住むアフガン難民の女性、ファラシュテの成長を撮影している。2016年 写真展「Fereshteh -13years in Iran-」at 銀座ソニーイメージングギャラリーを開催した。

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