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柴田裕介がプロデュースする日本工芸の美意識と奥ゆき

2020.6.4

1.海を越えて工芸の魅力を発信。HULS柴田裕介を魅了する地方の文化・風土・人

日本の工芸品を国内外に紹介するギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」を2019年に東京・赤坂にオープンさせた柴田裕介。海外展開に積極的な日本のメーカーや工芸作家を、クリエイティブとビジネスの両面から世界へと橋渡しして、日本の工芸の企画・プロデュースを行っている。柴田の活動は新たな人々のつながりを生み出し、そしてさらなる魅力ある工芸作品へと昇華させていく。

 

文・柴田裕介

「縁」というのは不思議なもので、自らで手繰り寄せるものもあれば、急に空から降ってくるようなものもある。そのときに運命だと感じることもあれば、時間が経ってから思い浮かぶようなこともある。このPremium Salonでは、私自身の工芸に関する活動の紹介とともに、事業を通じて出会った素敵な方々へとおつなぎしたい。

 

私は、シンガポールと東京を拠点として、日本各地の工芸品を国内外へと伝え届けることを仕事としている。2017年にはシンガポールに、2019年には東京の赤坂に「HULS GALLERY(ハルスギャラリー)」を開設し、工芸品の一般販売はもちろん、展示の企画やキュレーション、ファインダイニングへの卸販売なども行なっている。また、「KOGEI STANDARD」という工芸のオンラインメディアを企画・運営しており、自らで産地を訪問し、日・英のバイリンガルで工芸に関する情報発信を続けている。単に物を仕入れて販売するのではなく、工芸の業界全体に必要な仕組みを考えながら、デザインや写真、文章表現にも私たち自身の美意識を宿すことで、日本の工芸の魅力を新たな形で伝え届けていくことを心がけている。

2019年に東京・赤坂にオープンした工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」。 2019年に東京・赤坂にオープンした工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」。

2019年に東京・赤坂にオープンした工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」。

特別室でのテーマを設けた展示も「HULS GALLERY TOKYO」の魅力。 特別室でのテーマを設けた展示も「HULS GALLERY TOKYO」の魅力。

特別室でのテーマを設けた展示も「HULS GALLERY TOKYO」の魅力。

私たちの取り扱う作品は、すべて日本で作られたものであり、かつそれぞれの産地から生まれた工芸品だ。日本の工芸品と聞くと、手仕事による陶磁器や手編みの竹の作品などを思い浮かべる方が多いと思うが、私の中では、手仕事という魅力以上に、工芸品を通じて知るそれぞれの地域の文化や風土にこそ、強く惹かれるものがある。

 

同じ陶磁器でも、有田や備前、常滑に九谷など、その土地の風土やそこに住む人々の個性が、それぞれの工芸品には色濃く映し出されていることに気づかされる。海には海の、山には山の工芸品が存在し、色や形、素材などには、それぞれの産地の景色や美意識が長きに渡って埋め込まれている。この一つの島国の中に、これだけ多様な工芸品が存在するのは、おそらく日本くらいではないだろうか。そうした日本の工芸の奥ゆきに、私は深く魅了されてきた。


HULSは産地の歴史やものづくりの背景を大切にしながら活動をしている。写真は福岡県小倉の風景と有田焼の骨董品。 HULSは産地の歴史やものづくりの背景を大切にしながら活動をしている。写真は福岡県小倉の風景と有田焼の骨董品。

HULSは産地の歴史やものづくりの背景を大切にしながら活動をしている。写真は福岡県小倉の風景と有田焼の骨董品。

工芸品は地域の魅力だけでなく、人々の個性をも映し出す。ギャラリーでは50を超える工芸メーカーや工芸作家の作品を取り扱っているが、それらの作り手はみな、海外へと工芸を広めていきたいとする大きな志を持つ方々だ。その一人一人は、それぞれ異なる感性・感覚の持ち主ではあるが、多種多様な個性があり、一様ではない。職人は寡黙で気難しいとよく言われるが、そんなこともない。彼らには、語り尽くせぬほどの想いがあり、そうした作り手の熱意は、丁寧な手仕事が失われている今の時代にこそ響くものがあり、それは国内にとどまらず、世界の人々をも魅了している。

オンラインメディア「KOGEI STANDARD」を通じて、手仕事の魅力を国内外に発信している。 オンラインメディア「KOGEI STANDARD」を通じて、手仕事の魅力を国内外に発信している。

オンラインメディア「KOGEI STANDARD」の記事より。手仕事の魅力を国内外に発信している。


工芸品の多くは、日常で使っていただくために作られている。蒔絵や沈金などの加飾を施した漆器や上絵の磁器などは、年に一度の出番というものもあるが、多くのものは日々使っていただくことで、さらに味わい深くなっていく。萩焼の器や粉引と呼ばれる器などは、使って育つとも言われ、時間をかけるほど楽しみが増えるものもある。

 

私たちは、東京とシンガポールで、料理人のための器も販売している。特にシンガポールでは、ファインダイニングと呼ばれる、座席数が少なくお任せコースを中心に提供するレストランに対し、陶磁器から漆器、ガラスまで、幅広く工芸品を販売する。日常使いという点とは少し異なるが、料理人の素敵な料理が、器に盛られた様子を見ると、特別な喜びを感じる。その料理をまた、お客さんが楽しみながら食しているのを見ると、同時に作り手の方にも喜んでいただいているようで、感慨深くなる。

シンガポールのレストラン「terra Tokyo Italian」で使用されている有田焼の特注の器。 シンガポールのレストラン「terra Tokyo Italian」で使用されている有田焼の特注の器。

シンガポールのレストラン「terra Tokyo Italian」で使用されている有田焼の特注の器。

日本の工芸品は時代を越えてつながってきた歴史あるものだが、海を越えての広がりは限られてきた。有田の染付の器、常滑の藻がけの急須、山中の木地挽きの汁椀に東京の切子のぐい呑。一つ一つ丁寧に作られた工芸品たちは、今の時代にこそ横に横にと広がっていくべきものだろうと思う。海を超えれば、その先にはまた別の道があり、出会いがある。私自身は作り手ではないが、工芸品を通じて人と人とを繋ぎ、新たな縁をつないでいくことを仕事としている。たった一つの器との出会いが、特別なものとなることもある。それが私たちの願いでもあり、日々の原動力となっているのだ。

 

→2. フォトグラファー須田卓馬がライフワークとするレンズの向こう

柴田裕介 Yusuke Shibata 工芸ディレクター、HULS代表 1981年生まれ。立教大学社会学科卒。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。日本工芸ギャラリー「HULS Gallery Tokyo」「HULS Gallery Singapore」のキュレーション全てを手がけ、東京とシンガポールを拠点に活動を行う。またオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の編集や工芸ブランド「KORAI」のブランドプロデュースも行っている。 柴田裕介 Yusuke Shibata 工芸ディレクター、HULS代表 1981年生まれ。立教大学社会学科卒。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。日本工芸ギャラリー「HULS Gallery Tokyo」「HULS Gallery Singapore」のキュレーション全てを手がけ、東京とシンガポールを拠点に活動を行う。またオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の編集や工芸ブランド「KORAI」のブランドプロデュースも行っている。

Profile

柴田裕介 Yusuke Shibata

工芸ディレクター、HULS代表

1981年生まれ。立教大学社会学科卒。日本工芸の国際展開を専門とし、クリエイティブ・ビジネス面の双方における企画・プロデュースを行っている。日本工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO」「HULS GALLERY SINGAPORE」のキュレーション全てを手がけ、東京とシンガポールを拠点に活動を行う。またオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の編集や工芸ブランド「KORAI」のブランドプロデュースも行っている。

 

 

 

 

HULS GALLERY TOKYO

東京都港区赤坂6丁目4−10 赤坂ZENビル 2階

10:00 – 18:00

定休日:日曜・祝日

03-6280-8387

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

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