3フロア分の壁がすべて本棚になっている、まさに”本の森”のようだ。

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幅允孝が描く「こどものための物語の聖地」

2020.4.14

4. 安藤忠雄、幅允孝がこの場所に込めた思いを「つなぐ」館長・前川千陽

3フロア分の壁がすべて本棚になっている、まさに”本の森”のようだ。

 

大阪の新たな文化施設「こども本の森 中之島」館長に就任した前川千陽は、全国の図書館で司書・館長を経験し、児童書関連のイベント実施等の実績を持つ。「本の森を提案、設計、寄贈者である建築家・安藤忠雄、そしてクリエイティブ・ディレクターの幅允孝の思いを汲み、こどもたちへと伝えること、つなぐことが自分の新たなミッション」であると語る。これまでの経験を生かしつつ、文化施設ならではの斬新な試みにも挑戦したいと語る前川が、今後のイベント構想や、この場所にかける思いについて語る。

 

談・前川千陽

私はこれまで全国の図書館で図書館員・館長を務めてきました。TRC(図書館流通センター)に在籍してからは、図書館が自治体直営から業務委託に切り替わる際の立ち上げにも多く携わり、絵本・児童書に関しても「児童図書館研究会」に所属しています。今回、館長のお話をいただいたときは、これまでの私の経験を役立てることができるのではないかと思いました。「こども本の森 中之島」は、これまでにない新しいタイプの施設であり、注目度も高く、今後のモデルケースとなることもあるでしょう。重大な任務だと捉えています。

横穴から潜り込むようにして入る円形の書架は、輪廻をイメージした配架に。1人静かに心を落ち着けて読書が楽しむこともできる。 横穴から潜り込むようにして入る円形の書架は、輪廻をイメージした配架に。1人静かに心を落ち着けて読書が楽しむこともできる。

横穴から潜り込むようにして入る円形の書架は、輪廻をイメージした配架に。1人静かに心を落ち着けて読書が楽しむこともできる。

「本の森」は図書館ではなく、文化施設です。建物、配架、立地などどれも特徴的ですが、たとえば図書館には通常あるはずのカウンターがありません。すると、ひとまず自力で本を探してみますよね。そこから思わぬ本と出会う可能性がある。これは幅さんがお話しになったとおり、テーマごとに分類された配架方法とリンクした仕掛けなんです。

 

「本の森」の配架方法は、興味が横に広がりやすく、本との偶然の出会いが生まれやすい。“鉱物”の本を探していても隣にある“化石”の本が目に留まり、次は“古代生物”へと興味が移るかもしれません。一方で親御さんの興味は“鉱物”から“宝石”に広がって、親子でどんどん知的好奇心が膨らむなんてこともあり得るわけです。

 

TRCでは、この知的好奇心がきっかけとなって、こどもも大人もすべての人が図書館の持つ力(蔵書、検索システム、レファレンスなどの調べる機能など)を活用し、体験や創作などと結び付いた実践的研究に取り組んでほしいと願っています。その成果を、広く普及したいと「図書館を使った調べる学習コンクール」を実施しています。

 

この「図書館を使った調べる学習コンクール」(公益財団法人図書館振興財団主催)は、1人1つのテーマを自由に設定し、図書館とフィールドワークで調べ、まとめ、応募をしてもらうというものです。主に対象は小・中学生で、1997年の第1回開催からこれまでに、大学生の卒論顔負けの素晴らしい作品がたくさん生まれました。


左から、大阪市松井一郎市長、建築家・安藤忠雄、ブックディレクター・幅允孝、こども本の森 中之島こども本の森 中之島前川千陽館長。 左から、大阪市松井一郎市長、建築家・安藤忠雄、ブックディレクター・幅允孝、こども本の森 中之島こども本の森 中之島前川千陽館長。

左から、大阪市松井一郎市長、建築家・安藤忠雄、ブックディレクター・幅允孝、こども本の森 中之島こども本の森 中之島前川千陽館長。

中でも親子で調べる「こどもと大人の部」は、こどもと大人の間でコミュニケーションが深まるのはもちろん、視点の違いから意外な発見があると好評なんです。たとえば“恐竜”がテーマなら、図書館で一緒に調べた後、福井県立恐竜博物館に足を運んでみる。“恐竜”から“化石”に興味が行く子もいれば、“生物”に行く子もいる。このような活動も本の森ならまた一味違う、広がりや面白みを持った知的体験につながるのではないでしょうか。すぐ近くに大阪府立中之島図書館がありますから、より深く調べることができる環境も整っています。

 

「本の森」でもいろんな企画を計画中です。一般的な読み聞かせ会等だけではなく、ここでしかできないイベントを生み出せるのではないかと思っています。スタッフが館内を案内する「ツアーガイド」とか、本の朗読に生演奏を入れた「本の森のコンサート」とか。通常の図書館では音を出すイベントはできませんから。

 

スタッフにも、どんどん提案してほしいと伝えています。さっきから大きな笑い声が聞こえているでしょう。あれ、会議中なんです(笑)。スタッフは多様な職歴や経験を持つ人たちです。面接の採用基準ですか? 私の個人的な感覚ですけど「光るものを持っている」人ですね。

エントランスポーチには「永遠の青春」をテーマにつくられた青リンゴのオブジェ。 エントランスポーチには「永遠の青春」をテーマにつくられた青リンゴのオブジェ。

エントランスポーチには「永遠の青春」をテーマにつくられた青リンゴのオブジェ。

開館中のスタッフの持ち場については、おおよそは決めていますが「自由にしていて」と伝えています。この空間ですから、棚の間のちょっとした隙間にこどもが入っちゃうんですけど、これってわざと隙間をつくっているんですね。本棚も机もアールがついたデザインで、こども達がワクワクするような配置になっています。

 

安藤さんの建物、幅さんの選書と配架、そこに人が加わって「本の森」になります。ここに赴任して配架を見たとき、幅さんの感性に驚くとともに大きな刺激を受けました。それから幅さんの思いを聞き、話し合う中で、幅さんが言っていることを「私が深められるんじゃないか」と思いました。ここを構成するみんなの思いを利用者に伝える、「つなぐ」役目が私の新しいミッションだと捉えています。


前川千陽 前川千陽

Profile

前川千陽 Chiharu Maekawa
司書/学芸員
異業種を経て、近畿大学医学部図書館に8年勤務。河内長野市立図書館の児童書担当として5年勤務。㈱図書館流通センター(TRC)に入社して以降、自治体直営の図書館が業務委託・指定管理等に切り替わる立ち上げ業務など多く携わる。大阪市立図書館、大分県立図書館、中之島図書館等。
播磨町立図書館、三田市立図書館、豊田市中央図書館では館長を務める。2019年11月よりこども本の森中之島の館長に就任。絵本・児童書に造詣が深く、イベント開催等の実績多数。

Photography by Noriko Kawase
Text by Aki Fujita

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