謝小曼01

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小慢(シャオマン)新たなる茶藝の世界

2019.9.26

1. 京都小慢の店主・謝小曼が京町家から発信。
五感に響く茶藝の愉しみ

台北に素晴らしい茶藝館ある。美意識に満ちた空間でお茶を供してくれるのと同時に、選び抜いた工芸品を愛でることもできる。そんな評判を耳にする人が世界各国から来訪しては心を打たれ、その存在や世界観が拡がっていく。そうして日本でも有名になった茶藝館が「小慢(シャオマン)」である。主人の名は謝小曼(シャ・シャオマン)。彼女が2軒目の茶藝館を開く土地として選んだのは京都。歴史ある町家を舞台に、新たな茶の世界を魅せている。

 

談・謝小曼

台湾の茶文化と日本の美意識を融合。
京都の茶藝館での楽しみ

お茶の世界に魅せられたのは、日本の大学を卒業して日本の百貨店でバイヤーとして数年間働いた後、再び故郷の台湾へと戻ってからのこと。あるお茶会に招かれ、お茶をゆっくりと楽しむことができたとき、心を満たすその瞬間に幸せを感じたのです。台湾に生まれ育った私にとって、お茶は身近なもの。きちんと淹れたお茶は味も香りもよく、五感に響く素晴らしいひとときを運んでくれます。それはわかってはいましたが、慌ただしい日々の中でその歓びが薄れていたのかもしれません。

 

それから、お茶の淹れ方や選び方、楽しみ方など、お茶にまつわる事を学び直し、2008年に台北・師範大学エリアに茶藝館「小慢」を開くことにしました。ここではお茶を提供するのはもちろん、茶葉や茶器の販売、またギャラリーも併設し、訪れるお客様の五感を満たす空間となることを意識しました。ギャラリーで紹介する作品は台湾の作家にこだわらず、日本の作家も多いです。また、作家の方々につくっていただいた茶道具の販売もしています。私が心惹かれる作家は、作品である「もの」に対しての愛を感じる人。ただ技術があるだけでは駄目で、作品に心が宿っていることが大事だと思っています。

町家の空間を生かしつつ改装。モダンな雰囲気を纏わせた2階では教室やギャラリーが開かれる。ハタノワタルの和紙が使われた天井や天板など、しつらえにも注目したい。 町家の空間を生かしつつ改装。モダンな雰囲気を纏わせた2階では教室やギャラリーが開かれる。ハタノワタルの和紙が使われた天井や天板など、しつらえにも注目したい。

町家の空間を生かしつつ改装。モダンな雰囲気を纏わせた2階では教室や茶会が開かれる。ハタノワタルの和紙が使われた天井や天板など、しつらえにも注目したい。

台北に店を構えてから10年目の2018年、京都に小慢の2号店をオープンしました。日本に長く暮らしていたこともあり、台湾茶・中国茶を通じて新たな活動をするのなら日本、それも長い歴史に彩られた京都がいいと考えていました。京都は世界から多くの人が集まる美しい街ですし、屋並みやお寺など、文化的にも建築的にも、日本の歴史や伝統が脈々と受け継がれています。

 

この精神性は古くから伝わる台湾茶や中国茶に通じるもの。京都の暮らしに根付いた町家に、和紙や左官仕事といった日本の伝統的な素材や技法を用いたリノベーションを施して、京都小慢を完成させました。1階は台湾茶や中国茶を楽しむための道具や、私がセレクトした茶葉や茶菓子を扱うギャラリーとして、2階は教室や茶会のための空間としました。町家の建築の美しさをそのままに、格子から注ぐ光と影、静寂に包まれる空間は、私が思い描く茶の世界観そのものです。

京都小慢1階の茶道具が並ぶ空間。中国茶にまつわる企画展には、作家が特別に作る茶器などここでしか見られないものも多く出展され、評判を呼んでいる。 京都小慢1階の茶道具が並ぶ空間。中国茶にまつわる企画展には、作家が特別に作る茶器などここでしか見られないものも多く出展され、評判を呼んでいる。

京都小慢1階の茶道具が並ぶ空間。中国茶にまつわる企画展には、作家が特別に作る茶器などここでしか見られないものも多く出展され、評判を呼んでいる。

京都小慢1階には台北で購入できるのと同じ茶葉が並ぶ。「日本では自然栽培の野放茶に興味を持つ人が多いですね」。 京都小慢1階には台北で購入できるのと同じ茶葉が並ぶ。「日本では自然栽培の野放茶に興味を持つ人が多いですね」。

京都小慢1階には台北で購入できるのと同じ茶葉が並ぶ。「日本では自然栽培の野放茶に興味を持つ人が多いですね」。


京都小慢のリノベーションは和紙作家のハタノワタルさんが企画をし、建築家や彫金の作家など約5人のアーティストによる日本の伝統建築と台湾の茶文化が融合した空間が完成しました。ハタノさんは、京都の北部で800年に渡って受け継がれる黒谷和紙を漉き、その和紙をツールとしてインテリアに取り入れて空間をつくり出す和紙作家です。

みずから和紙を漉いて色を重ね、内装のパーツとしての和紙というジャンルをつくり上げたハタノワタルによる空間。 みずから和紙を漉いて色を重ね、内装のパーツとしての和紙というジャンルをつくり上げたハタノワタルによる空間。

みずから和紙を漉いて色を重ね、内装のパーツとしての和紙というジャンルをつくり上げたハタノワタルの作品による空間。

ハタノさんとの付き合いは長く、彼が台北の小慢を訪れてくれたとき、和紙を作る職人さんと伺ってすぐに作品を拝見しました。一目見て、「うちで展覧会を開らかせて!」とお伝えしたほど素晴らしい作品ばかりでした。もともと百貨店でバイヤーをしていたこともあり、いいものを見抜く目は常に養ってきたつもりです。彼がつくり出す和紙は、独特の質感や風合いがあり、力強さと優しさを兼ね備えた存在感のある作品。そして作品同様、彼自身も情熱のある可愛い人です。今では日本にとどまらず、台湾でも大変人気の高い作家になりました。京都小慢では店内の襖や天井、テーブルの天板など、ハタノさんの和紙が多く使われています。ぜひお越しいただき、この世界観をご覧いただきたいです。

 

またハタノさんの紹介で出会った岡山在住の陶芸家・河合和美さんは、これからが楽しみな方。河合さんは毎月京都小慢のお茶の教室に通って来てくれる熱心な生徒さんでもあります。彼女がお茶を入れる所作は繊細で、きっといい茶人になると感じています。お茶を知ることで陶芸家としてもより深みを増し、さらにいい茶器をつくっていくと期待している1人です。

河合和美の作品である中国茶の茶道具。台北での展示会でも人気を集めた。 河合和美の作品である中国茶の茶道具。台北での展示会でも人気を集めた。

河合和美の作品である中国茶の茶道具。台北での展示会でも人気を集めた。

三重の山中に暮らしている立体造形作家の沓沢佐知子さんも素晴らしい作品をつくられます。三重の美杉町に「朔(さく)」というレストランをご主人の敬さんと営みながら、自身でお茶畑も持ち、お茶の生産もしているというアクティブな人。京都小慢で展示会をした際では、中庭に実物大の鹿の作品を置いてくれました。その鹿の目が本当に優しくて、訪れた多くの人をどれだけ和ませてくれたことでしょう。また、彼女のつくる中国茶器には、碗の蓋に動物の彫刻が施されていているなど、茶道具とアートを融合させた作品が斬新です。

左の鹿は沓沢佐知子の作品。右は茶器の蓋に動物が施された中国茶器。 左の鹿は沓沢佐知子の作品。右は茶器の蓋に動物が施された中国茶器。

左の鹿は沓沢佐知子の作品。右は茶器の蓋に動物が施された中国茶器。


お茶を楽しむということはお茶そのものをいただくだけでなく、空間やしつらい、茶器、料理など、その世界は多岐渡ります。教室では春なら桜、夏なら涼しげなしつらいなど、季節をテーマにしていますし、茶葉は台湾や中国に限らず、インドやベトナム、ミャンマーなどで私が買い付けてきたものを使うこともあります。また展覧会に合わせて、料理人とコラボレーションする茶会を開催することもあります。

京都小慢で開催されているお茶の教室の様子。小曼の話を聞きたいと遠方から通ってくる人もいる。 京都小慢で開催されているお茶の教室の様子。小曼の話を聞きたいと遠方から通ってくる人もいる。

京都小慢で開催されているお茶の教室の様子。小曼の話を聞きたいと遠方から通ってくる人もいる。

お茶の楽しみ方は自由でいいと思います。例えば京都の教室では近くの神社の湧き水を使ってお茶を淹れています。松本では野に咲く花を摘んだり、インドでは咲き乱れていたジャスミンを使ってウェルカムティーを作ったり、その土地の情景をイメージし、茶葉が生まれた土地の歴史を感じ、自然の恵みに感謝する心を持つことこそが大事だと思っています。

 

いつかは山に囲まれた景色のいい場所で、お茶を育てて、その土地に咲く花を摘んで、そしてゆっくりとお茶を楽しむ生活をしたいと思っていますが、それはまだ先のこと。今はカジュアルなティー・バーをやりたいとか、もっとお茶の研究をしたいとか、いろんな側面からお茶にアプローチできる空間をつくりたいとか、夢が止まりません。お茶を通じて出会えた多くの人との時間を大切にしながら、美味しい1杯のお茶をいただく幸福感を多くの人と共有したいと思っています。

 

 

→次回はハタノワタル(和紙作家)です。
(敬称略)

謝小曼 謝小曼

Profile

謝小曼 Sha Xiaoman
1964年台湾生まれ。日本の大学を卒業後、「西武百貨店」にバイヤーとして勤務。日本の工芸品に触れ、審美眼に磨きをかける。2008年台北に茶藝館「小慢」を、2018年京都にギャラリー・教室「京都小慢」を構える。

京都小慢
京都府京都市上京区幸神町313
営業時間:12:00〜18:00
営業日:金曜・土曜・日曜(展示会・イベント時は変更あり)
教室や展覧会については
https://www.facebook.com/xiaoman.tea/

Text by Mako Yamato
Photo by ©Xiaoman

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