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皆川魔鬼子 テキスタイルの世界観

2019.8.23

2. インドの手仕事「カディ」と、HaaTに息づくアシャ・サラバイの思い。

この夏、ニューヨークのトライベッカにあるイッセイ ミヤケ旗艦店で「Khadi: Indian Craftsmanship」が開催された。インドの象徴である手紡ぎの綿布「カディ」が、世界的なテキスタイルとして認知されるようになった陰には、インドでプロデューサー兼キュレーターとして活躍していた、マルタン・シンの功績が大きい。2017年に逝去したシンの精神はHaaTのトータルディレクターである皆川魔鬼子を通して、シンの同志であり皆川の良き友人でもあるインドの実業家、アシャ・サラバイの中に、今も生き続けている。

手仕事が生み出す美、インドテキスタイル「カディ」

インドの手紡ぎ・手織りの綿布「カディ」は、インドの歴史や思想、哲学、そして人々の暮らしを語る上で切り離せない存在だ。インドは世界一の綿花生産量を誇る「綿花大国」。インドにおける綿花の歴史は、インダス文明が興った約7000年前まで遡るほど古い。綿花を「チャルカ」という糸車を使って手紡ぎをして、その細い糸をていねいに手織りしてカディはつくられる。手間と時間と、多くの職人の手を経て紡がれていくカディは、優しく柔らかく、くるまると落ち着く、そんな心地よさを与えてくれるテキスタイルである。

Khadi: Indian Craftsmanship Khadi: Indian Craftsmanship
Khadi: Indian Craftsmanship Khadi: Indian Craftsmanship

(上・下)ニューヨークのトライベッカにあるイッセイ ミヤケ旗艦店で開催された「Khadi: Indian Craftsmanship」。

2019年8月、ニューヨークのイッセイ ミヤケ旗艦店で開催された「Khadi: Indian Craftsmanship」は、昨年、東京の21_21 Design Sightでも開催され好評を得た展覧会である。インドの文化、手仕事の魅力、伝統と発展を、インドテキスタルの幅広い文化復興活動を行ったマルタン・シンの言葉、目線で紹介している。インドであっても、手仕事を守り、伝えていくことは容易ではない。皆川は1980年代からマルタン・シンと仕事をしてきたが、皆川にとってシンは「インドの価値を教えてくれただけではなく、日本のテキスタイルを見直すことを築かせてくれた人」だと語る。

インドテキスタイル「カディ」を語る上で欠くことができない存在、マルタン・シン。世界の一流メゾンが注目するまでのテキスタイルに育てた功労者である。 インドテキスタイル「カディ」を語る上で欠くことができない存在、マルタン・シン。世界の一流メゾンが注目するまでのテキスタイルに育てた功労者である。
インドテキスタイル「カディ」を語る上で欠くことができない存在、マルタン・シン。世界の一流メゾンが注目するまでのテキスタイルに育てた功労者である。

マルタン・シンと共にインドの手仕事を世界の一流メゾンに伝え、インドテキスタイル地位を確立させたのが、インドでデザイナーとして、また実業家として活躍するのがアシャ・サラバイである。アシャはかつて皆川と共に三宅デザイン事務所でブランドを立ち上げた経験を持ち、皆川の友人でもある。2人はシン亡き後、彼の言葉を胸に秘め、今も手仕事やインドテキスタルへの思いを深め、さらなる復興に力を注いでいる。

談・アシャ・サラバイ

 

私が三宅一生さんと皆川魔鬼子さんに出会ったのは1980年代のこと。インド政府の招聘で、三宅さんと皆川さんがインドを訪れ、インドの手仕事やインドテキスタイル「カディ」に興味を持ってくださいました。同じ頃、「手仕事」を軸にブランドを立ち上げたばかりの私の作品を見て、三宅さんと皆川さんが共働でものづくりをしないかと声をかけてくれたのが、2人とのつながりのはじまりでした。その後、皆川さんとは共に服作りをしたこともあり、心通い合うところがたくさんあるように思います。現在、HaaTでは一緒に仕事はしていませんが、皆川さんがインドに来るときには我が家へ遊びに来てくれて多くを語らっています。これは私たちの楽しみです。

綿花から糸を紡ぐときに使用する「キサン・チャルカ」という糸車。 綿花から糸を紡ぐときに使用する「キサン・チャルカ」という糸車。

綿花から糸を紡ぐときに使用する「キサン・チャルカ」という糸車。


世界の一流メゾンを魅了するカディは、
インドの歴史と共に大きく変化してきた

インドの気候に相応しい機能性を持つ「カディ」。 インドの気候に相応しい機能性を持つ「カディ」。

インドの気候に相応しい機能性を持つ「カディ」。

マプー(マルタン・シンの呼び名)は私より2歳上で、まさに同じ時代を生きた同志です。彼はインドテキスタイルの開拓と発展、技術の保存や職人の育成に取り組んだ名プロデューサーであり、名キュレーターでした。私たちは常に仕事や思想について語り合い、そして共にカディ発展、インドのために闘ってきました。マプーは「手紡ぎの瞑想的な作業によってつくられるカディは自由の象徴。そしてカディは織り手の能力や意欲を引き出す不思議な魔法の力を持っている」とも話していました。心からカディを愛し、そして自らの言葉でその魅力を伝えてきたマプーは、常に世界のクリエイターのインスピレーションを与える偉大なる存在でした。彼と話したことで、私の人生はどれほど豊かになったことでしょうか。それはきっと三宅さんや皆川さんにとっても同じだったと思います。刺激的で情熱的、しかし現実的な彼の言葉は私たちを救い、そして私たちを奮い立たせました。

1920年にガンジーが創設したGujarat Vidyapith大学では、現在も教師と学生がカディを身に着け、授業の一環としてキサン・チャルカで糸を紡ぐ。 1920年にガンジーが創設したGujarat Vidyapith大学では、現在も教師と学生がカディを身に着け、授業の一環としてキサン・チャルカで糸を紡ぐ。

1920年にガンジーが創設したGujarat Vidyapith大学では、現在も教師と学生がカディを身に着け、授業の一環としてキサン・チャルカで糸を紡ぐ。

「伝統を美化してはいけない」。これはガンジーもマプーも同じ考えでした。そして私は伝統を独自の文化として抱え込むのも間違っていると思っています。人々が旅をして、多くのものを学び、そして成長するように、伝統も多くの国の文化が交わり、時代を経て、そして完成度を高めていくものだと思っています。伝統を博物館に展示するのもよいですが、それだけでは本当の意味での継承にはなりません。伝統的な織りの技法にイカットというものがあります。これは日本では絣(かすり)として古くからありますが、その発祥はインドであると強調する人たちがいます。しかしイカットはインドや日本に限らず、インドネシアなどのアジア全域でもみられる技法でもあります。同じ技法でも、独自の文化や生活習慣の中で変化を繰り返して今に伝わるわけですから、イカットは誰のものでもないと思います。私は文化であれ、人間関係であれ、伝統であれ、“交わること”が大切だと考えています。多くのモノを見て、感じて、意見を交わすことで、より磨かれて強さが生まれ、進化するのです。この発想はHaaTの中にもあると思います。だからこそ皆川さんからは常に新しいインスピレーションが生まれてくるのです。そしてそれは日本の手仕事へ大きなチカラとなっているはずです。


ISSEYMIYAKE/NEW YORK で開催された「Khadi:Indian Craftmanship」。 ISSEYMIYAKE/NEW YORK で開催された「Khadi:Indian Craftmanship」。

ISSEYMIYAKE/NEW YORK で開催された「Khadi:Indian Craftmanship」。

Profile

アシャ・サラバイ Asha Sarabhai
デザイナー・実業家

インドテキスタイル「カディ」を語る上で欠くことができない人物。マルタン・シンと共にインドの手仕事を世界の一流メゾンに伝え、インドテキスタイルの地位を世界に確立。皆川魔鬼子とは80年代より親交を深めている。サラバイ家は所有する「サラバイ邸」は巨匠ル・コルビュジェが設計したことで知られている。

 

 

 

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Photography by © ISSEY MIYAKE INC.

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