石本藤雄を囲むアーティストたち

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石本藤雄を囲むアーティストたち

2019.6.26

3. 「マリメッコ」の店舗デザインを手がける ima(イマ)の小林恭・マナ夫妻

設計事務所 imaを主宰する小林恭・マナ夫妻は、世界のマリメッコ店舗の空間デザインを手がけている。マリメッコとの仕事は、2005年青山スパイラルで行われた展覧会の会場構成に始まり、その翌年には日本国内店舗の空間デザインを手がけた。これが本社に高く評価され、世界の店舗デザインを担当するきっかけになったという。マリメッコとの仕事は、彼らの憧れのテキスタイルデザイナー石本藤雄との出会いももたらした。石本と語らい、過ごした時間の中で彼らが感じ、学んだことについて時系列に綴る。

 

文・小林恭・マナ

2005年11月

青山スパイラルで行われるマリメッコの展覧会の会場構成と、2006年からスタートする店舗設計を手がけることになり、本国へ空間デザインの承認を取るためにフィンランド・ヘルシンキに飛んだ。模型を見せると当時のCEOキルスティ・パッカーネン氏は、飛び上がって喜び一発で了承を得た。その後、行われた船上パーティーで初めて石本さんとお会いした。

2005年に会場構成を担当したマリメッコ展(会場:青山スパイラル)では、森と湖をテキスタイルで表現した。 2005年に会場構成を担当したマリメッコ展(会場:青山スパイラル)では、森と湖をテキスタイルで表現した。

2005年に会場構成を担当したマリメッコ展(会場:青山スパイラル)では、森と湖をテキスタイルで表現した。


「はじめまして!イマの小林と申します。」 「はじめまして!マナです!」 「……どうも」 「今回、展覧会の会場構成とこれから日本で展開するお店のデザインの担当することになりました!」「……ふ〜ん。」「そうなの。」「じゃ。」と去って行ってしまった。 初めての会話は、全く弾まなかった。

2007年4月

東京・白金での石本さんの個展が開催され足を運んだ。この時も反応は全く同様 だった。


2010年1月

幸運にも日本の店舗のデザインを評価されて、マリメッコ本社と世界展開の店舗設計も担当することになり、打ち合わせのため関西国際空港へ。そこで、石本さんとばったり再会した。ヘルシンキ空港に着いたところで、「両替した?」「いつまでいるの?」「うちに遊びに来る?」と、今までの慌ただしい中での石本さんとは明らかに違う対応だった。大きな窓から差し込む光が美しい石本さんの部屋は、スッキリと片づき、オイヴァ・トイッカ、カイ・フランク、石本さんのファブリックが張られたソファや、石本さんデザインの縞模様の脚の家具がゆったり置かれていた。そして、石本さんが準備してくださったフィンランド料理をご馳走になり一気に打ち解けた。

 

それから私たちは、毎月のように出張でヘルシンキへ行き、その度にヘルシンキの友人を誘って食事に行 くようになった。空港でばったり再会するまで思い描いていた無口な孤高のアーティストというイメージは一変し、優しくユーモアのある好奇心溢れるシティボーイというイメージに変わっていった。マリメッコ創始者のアルミ・ラティアやデザイナーのマイヤ・イソラの話、ニューヨークからフィンランドにやってきた理由や、故郷・砥部での少年期の話など、石本さんの話題は尽きなかった。私たちが本で読んでいた話を、本人から聞けることに興奮していた。

設計を担当したヘルシンキのマリメッコ本社に併設されたファクトリーショップ。 Photography by Nacasa and Partners 設計を担当したヘルシンキのマリメッコ本社に併設されたファクトリーショップ。 Photography by Nacasa and Partners

設計を担当したヘルシンキのマリメッコ本社に併設されたファクトリーショップ。

Photography by Nacasa and Partners


2010年12月

石本さんから国際電話で「ファクトリーショップ良かったですよ。」イマで 設計を手がけたファクトリーショップとカフェを見た感想の連絡をもらって、私たちはガッツポーズをして喜びあった。


2012年12月

スパイラル「布と陶 ―冬―」展の会場構成をイマで担当した。 石本さんとの初めての協働である。石本作品が持つ優しさや強さ、そして美しい質感、色彩や形状をどう展示すればよりストレートにその魅力が伝わるのか。その答えは、いつも石本さんができあがった作品を確認するときに、アトリエの壁に陶器を立て掛ける方法だと気づき、その見せ方を黒皮鉄(くろかわてつ)とオーク材の特注什器で実現し好評を得た。

2012年の12月に会場構成デザインを担当した青山スパイラルで開催された石本藤雄「布と陶-冬-」展。 Photography by Nacasa and Partners 2012年の12月に会場構成デザインを担当した青山スパイラルで開催された石本藤雄「布と陶-冬-」展。 Photography by Nacasa and Partners

2012年の12月に会場構成デザインを担当した青山スパイラルで開催された石本藤雄「布と陶-冬-」展。

Photography by Nacasa and Partners


石本さんは日本へ帰国すると、よくジャパンレールパスでふらりと小旅行に出ているようだ。ちょうどその時、青森県立美術館で「フィンランドくらしとデザイン」展が開催されていたので、石本さんと一緒に行くことになった。重い土をこねたり持ち運んだりしているせいからか、同年代の人よりもずいぶんと動きが機敏で力強い。全く年齢を感じさせない。

 2018年の5月に会場構成デザインを担当した太宰府天満宮で開催された石本藤雄「実のかたち」展。 Photography by Kei Maeda  2018年の5月に会場構成デザインを担当した太宰府天満宮で開催された石本藤雄「実のかたち」展。 Photography by Kei Maeda

2018年の5月に会場構成デザインを担当した太宰府天満宮で開催された石本藤雄「実のかたち」展。

Photography by Kei Maeda

2018年5月

太宰府天満宮「実のかたち」展の会場構成をイマで担当。 展示会場の設営のために用意した図面から、位置を変え、試行錯誤を繰り返して、結局は、ほぼ図面通りの配置で納まった。一つ一つの作品がその場所に納まっていく作業は根気が必要だったが、パズルが気持ちよく組み合わさる感覚を味わえた。そんな大変な作業の後は、小旅行で疲れた体を癒した。

太宰府天満宮で開催した「実のかたち」展での設営の様子。 太宰府天満宮で開催した「実のかたち」展での設営の様子。

太宰府天満宮で開催した「実のかたち」展での設営の様子。


2018年10月

愛媛県立美術館での「マリメッコの花から陶の実」展を観に行った。会場構成のお手伝いはできなかったが、石本さんの作品と美術館の所蔵品を組み合わせたその内容に、美術館の所蔵リストを楽しそうに選定していく石本さんの顔が見えるようだった。


2019年6月

私たちはフィンランドのテキスタイルブランドLAPUAN KANKURIT(ラプアン・カンク リ)の旗艦店を設計し、そのオープニングに石本さんを招待した。いつものカジュアルなベストではなく、ジャケットを着て参加してくれた。なぜか、嬉しくもあり照れ臭くもあった。

 5月にオープンしたテキスタイルブランドのラプアンカンクリのヘルシンキフラッグシップショップ。  5月にオープンしたテキスタイルブランドのラプアンカンクリのヘルシンキフラッグシップショップ。

5月にオープンしたテキスタイルブランドのラプアンカンクリのヘルシンキフラッグシップショップ。


今年もマリメッコでは、石本さんの1975年の生地(Onni /幸せ)の復刻が大々的にフィーチャーされ、ウィンドウを飾っている。これからも石本さんは、新しい作品を生み出し続け、人々を幸せにしていくに違いない。私たちもそんな仕事を目指し日々努力して人々を幸せにする空間を作れたらと思ってやまないのである。

 

次は原田智香子(写真家)です。

(敬称略)


小林 恭&小林マナ 小林 恭&小林マナ

Profile

小林 恭&小林マナ
1966年兵庫県神戸市生まれ。1990年多摩美術大学インテリアデザイン科卒業後 カザッポ&アソシエイツに入社(小林 恭)。1966年東京都生まれ。1989年武蔵野美術大学工芸デザイン科卒業後 ディスプレイデザイン会社に入社(小林 マナ)。共に1997年退社後、建築・デザイン・アートを勉強するために半年間のヨーロッパ旅行へ。 1998年帰国後、設計事務所 ima(イマ)を共同主宰する。

 

Ima(イマ)では飲食、物販の店舗デザインを主軸にプロダクト、住宅建築、展覧会場構成などを多数手がけている。場所やブランドを活かしたコンセプトづくり、使いやすさや機能性向上と共に、バランス感覚やユーモアを織り交ぜたデザインを追求した設計活動を行う。色と素材を巧みに取り入れたハッピーな空間設計は、プロダクトや住宅、ホテルや幼稚園などでも発揮。主な作品には「マリメッコ」「イルビゾンテ」「インテリアライフスタイル展」「井の頭ハウス」などがある。
http://www.ima-ima.com/

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