中川政七中川政七

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Portraits

日本のエグゼクティブ・インタビュー

2022.4.25

工芸の未来を描き、日本を、地方を、もっと元気に   中川政七商店 代表取締役会長 中川政七


類いまれなブランドストーリーを持つ企業のエグゼクティブにご登場いただくのが、Premium Japan代表・島村美緒によるエグゼクティブ・インタビュー。彼らが生み出す商品やサービス、そして企業理念を通して、そのブランドが表現する「日本の感性」や「日本の美意識」の真髄を紐解いていく。

今回は、器や衣料品、インテリアや食品に至るまで、日本の工芸技術をベースにした生活雑貨を製造・販売する株式会社中川政七商店の代表取締役会長・中川政七氏に話を聞いた。



目の前に突き付けられた、日本の工芸への危機感

 

中川政七商店のルーツは、初代中屋喜兵衛が奈良で奈良晒の商いを始めた1716年に遡る。創業当初は活況だった奈良晒の産業も、時代の変容とともに需要が低下し衰退。そんな中、手仕事による製法を守るために、戦後まもなく生産拠点を海外に移したり、新たに茶道具業界への参入や麻小物の製造販売を開始するなど、時代に即した変化を自ら取り入れ300年の歴史を紡いできた。

 

そんな家に生まれながら、当初はその家業を継ぐ気はなく、大学卒業後は一般企業に就職した中川氏。

 

「上司にも恵まれ、会社員としての仕事も楽しかったですね。ただ大企業ゆえ、次のステップに上がるには10年はかかるように、スピード感がないことが退屈で、小さな会社で働きたくなったんです。それで改めて、実家である中川政七商店を選択肢として考えるようになりました」



中川政七 中川政七

業界初のSPA業態の確立など、工芸の世界での革新的な試みから、「カンブリア宮殿」「SWITCH」などのTV出演も多い。



入社後、驚いたのはこれだけ長い歴史を持つ会社でありながら、社是も社訓もないことだったという。

 

「父に聞いても『別にそんなもんで売り上げは上がらへん。いらん』と言われて(笑)でもやはりこの先やっていくには、働くみんなの旗印になるビジョンが必要だと思うようになったんです」

 

特にその思いを強くしたのが、ものづくりにかかわる企業の廃業の連鎖に直面したことだった。

 

「廃業と聞いて残念だなと思うぐらいだったのですが、それが次々と続いたんです。このままでは日本の工芸、日本のモノづくりがなくなってしまうと、危機感を覚えました」

 

当時中川政七商店も雑貨部門が赤字だったのだが、なんとか立て直した経緯があった。

 

「正直、工芸や雑貨はなかなか儲からないのも事実。存続させていくには、“経営”という視点を持って、仕組みを徹底的に磨き上げる必要があります。同じようなことが他社でも起こっているなら、自分たちの経験から役に立てることがあるのではと考えるようになったんです」



中川政七のロゴ 中川政七のロゴ

中川政七商店のロゴマークも、ブランドを伝えるにあたって2010年に新たに作られたもの。



経営が持続できるものづくりへ、企業を再生

 

そして2007年に掲げたのが、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンだ。

 

「このビジョンによって、一気にさまざまなことが変わりだしました。中川政七商店としてやるべきことが明確になったんだと思います。そして、良いものづくりをしながらも経営的にうまくいっていない企業をなんとかしようと、コンサルティングを始めたんです」

 

その1件目が長崎県で波佐見焼を生産する有限会社マルヒロだ。中川氏のサポートのもと、独特の色合いとシンプルなデザインのマグカップなどを揃えたブランド「HASAMI」を立ち上げ、中川政七商店でも人気のブランドに成長した。「この成功で、年商1億円以下の赤字企業の再生をする企業として注目を浴び、再生案件が続々と来るようになりました」。



中川政七 花ふきん 中川政七 花ふきん

奈良の伝統産業のひとつであるかや織を使った「花ふきん」。中川政七商店で約30年続くロングセラー商品だ。



さらにものづくりが安定しても、それだけでは本当の再生にはならないと始めたのが、日本各地のメーカーが集結する合同展示会『大日本市』だ。

 

「かつて自分たちが販路を開拓しようとしたとき、出展したいと思える展示会がなかなかなかったんです。一般的な展示会は、下手をすれば名刺交換で終わってしまう。でも本来の目的は注文を取り、商売につなげる重要な場のはず。いいものを作って終わりではなく、そのあとの商売まで考えて動くことが重要なんです」

 

ものを作る企画力だけではなく、それをいかに伝え売り上げにつなげられるか。会期中は毎日朝礼で各社の前日の受注を発表し、来場者による人気投票ボードも設置。厳しくとも、確実に企業やブランドが次のステップを踏むきっかけとなる場としての機能を持たせている。

 



大日本市 大日本市

日本全国からつくり手が集まる大日本市の会場で。毎年60社を超えるさまざまな工芸メーカーが参加する。



工芸産地が生き残るためのまちづくり

 

2002年の入社以来、数々の改革を指揮してきた中川氏だが、2018年に初めて創業家以外出身の千石あや氏にそのバトンを引き継ぎ、会長職に。現在力を注いでいるのがまちづくりだ。

 

「単なる街の活性化ではなく、工芸産地が生き残ることが一番の目的です。産地の衰退を防ぐためには、共倒れの要素の強い分業制から脱却し、ものづくりの工程を一か所に集約した方がいい。そこで行き着いたのが、ものづくりの現場を観光資源にする“産業観光”です。一方で生産者の拠点は山の中など、アクセスのいい場所にはありません。人に来てもらうには、そこにおいしいレストランやいい宿が必要です。ものづくりとともに、人が来たいと思う要素を作る。それが結果的に街づくりや地方創生という事業になってきたんです」

 

2017年には日本工芸産地協会という業界団体も設立し、日本各地の工芸産地の企業が自ら産地の未来を描けるように活動をサポートしている。

 

奈良から始める、スモールビジネスの学びの場

 

そして創業の地・奈良で2021年にオープンしたのが、複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング」だ。中川政七商店 奈良本店や猿田彦珈琲が入るなど観光施設として楽しめるだけでなく、3Fのコワーキングスペースは、まちづくり「N.PARK PROJECT」の拠点となっている。「スモールビジネスで奈良を元気にする!」というキーワードのもと、ここを拠点にビジネスについて学び、自らビジネスを生み出していけるよう活動をしている。

 



2021年にオープンした複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング」 2021年にオープンした複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング」

2021年にオープンした複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング」



「奈良は世界遺産も多く観光客も多いんですが、実は観光客の消費額は他県に比べ断トツに低く、全国で47位になったこともあるのです。それを知って衝撃を受けました。奈良に来ても、結局いい店がないのでお金を使わない。それは僕らの時代の責任であり、行きたいと思うお店を作ってこなかった奈良の経営者全員が反省すべき点だと思ったんです」

 

学びが必要だと感じたのは、多くの企業のコンサルを手掛けてその弱点はみな“経営”ということをやっていないということに気づいたからだという。

 

「MBAを取るような難しい内容ではないんです。事業計画や予算表を作るなど、基本的な経営を知り、商売として成り立つための「学びの型」さえわかれば、十分にやっていける。忙しくて一生懸命やっているのに儲からない、だから後継者も現れない。そんな問題も解決できる方法を学ぶ場にしています」

 

N.PARK PROJECTには「学びの型」のほかに「一歩踏み出す勇気」というコンセプトがある。これは既存の企業だけではなく、新たな人材にチャレンジをしてほしいと思っているからだ。実際に若い世代の参加も多く、これまでも働き方の選択肢を日本の若者に示したいと学生が立ち上げたラーメン店や、こだわりのスパイスカレー店をサポートし、コロナ禍の中でも黒字経営になるなど実績を上げている。



経営を通して、学生と地方創生をつなぐ新プロジェクト

 

地方創生を目指す活動は、東京でもスタートしている。東京駅前の新街区TOKYO TORCHにオープンするのが、各都道府県出身の学生が自らの地元をPRする地産品のセレクトショップ「アナザー・ジャパン」だ。事前に“学びの型”を伝授しバックアップはするが、仕入れから販売まで店舗経営はすべて学生が責任を持つ。

 

「アナザー・ジャパンの最終目標はお店の黒字化ではないんです。学生たちにとって、この店の経験は改めて地元とのつながりになるはず。10年あるいは15年経った時に、起業やあるいは地元企業への関わりなど、彼らにとって地元へ戻ることがひとつの選択肢になるかもしれない。そんな種を今、蒔くことができればと思っています」



選択基準はライフスタイルから“ライフスタンス”の時代へ

 

重要なのは、そうやって自分で選択する力を持つことだと中川氏は語る。

 

「美意識や価値観は、個人にゆだねられているもの。例えば、生活雑貨すべてを中川政七商店で揃えてほしいとは思いません。みんなが自分の価値観や美意識を持ち、自分で考え、自分で選ぶ。そのスタンスこそが何より大切だと思いますし、われわれ中川政七商店としても大切にしたいポイントだと思っています」

 

その選択基準も、今はもはやライフスタイルで選ぶものではないと中川氏は語る。

 

「単に素敵なスタイルでというのではなく、例えばこの会社は環境に配慮したものづくりをしているのかというような、もう一つ上の段階の視点、いわゆる“ライフスタンス”でものを選ぶようになっていると思います。われわれも、日本全国の工芸技術による商品を通じて、中川政七商店の考え方や価値観を伝えることを大切にしていくべきと考えています」



中川政七 中川政七

シンプルかつこれまでにないカラーの漆器がそろうRIN&CO.は、越前漆器の老舗「漆琳堂」のブランド。大日本市でも多くのバイヤーの注目を集めていた。



「うまくいっているものをさらに伸ばすということには興味がありません」という中川氏。

 

「それよりも、今困っているところに手を差し伸べ、自ら解決する力をつけてもらう。そうすればものつくりの現場はもっと強くなる。それが僕の仕事なんです」

日本のものづくりを支える企業としてやるべきこととはなにか。手掛ける中小企業のコンサルティングも、まちづくりも、若者へのサポートも、そのすべては工芸の世界を守り続け、さらに未来へとつなげるためだ。ものづくりの魅力を信じ、伝え続ける中川政七商店の挑戦に、これからも目が離せない。

 

 

 



中川 政七 Masashichi Nakagawa

1974年奈良県生まれ。 京都大学法学部卒業後、2000年富士通に入社。 2002年に家業である中川政七商店に入社し、2008年に13代目代表取締役社長に就任。製造から小売まで、業界初のSPAモデルを構築。2018年より現職。著書に『経営とデザインの幸せな関係』(日経BP社)『日本の工芸を元気にする!』(東洋経済新報社)等。

 

島村美緒  Mio Shimamura

Premium Japan代表・発行人。外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。2019年株式会社アマナとの業務提携により現職。

 


Text by Yukiko Ushimaru
Photography by Toshiyuki Furuya

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