石上純也建築設計事務所の片隅には簡易的に囲われた石上の仕事スペースがある。大きな机とたくさんの書籍が並ぶスペースで石上は構想のためにスケッチをする。石上純也建築設計事務所の片隅には簡易的に囲われた石上の仕事スペースがある。大きな机とたくさんの書籍が並ぶスペースで石上は構想のためにスケッチをする。

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Portraits

建築家・石上純也の創造と理想(後編)

2020.5.8

自然と融合する石上純也の建築。次なるは洞窟のようなレストラン

石上純也建築設計事務所の片隅には簡易的に囲われた石上の仕事スペースがある。大きな机とたくさんの書籍が並ぶスペースで石上は構想のためにスケッチをする。

見てみたい景色を思い浮かべ、ほぼ原寸に近い模型まで作って詰めても、半分ぐらいは見てみないとわからない。想像とは違う発見が必ずある。むしろ50%くらいまでしかわからない状況を自分の中に残すことも、重要だと石上は考えている。「たとえ同じような考えであっても、敷地は違うし、建つ時代背景が違えばまったく異なるものになって、そこに建築の大きな特徴が生まれてくる。特定のクライアントがいて与条件があり、その一つの回答として設計する以上、一つひとつが違ってくるのは当然のこと。常に実験が必要になると思っています」。

風景と人工の構造が調和する、意味を多重化したパビリオン

自然の風景と実験的な構造を融合させた作品のひとつに、イギリスの「サーペンタイン・パビリオン」がある。毎年新たに選ばれた建築家がつくるパビリオンは世界が注目し、日本人によるものでは4作目になる。

2019年のサーペンタインギャラリー・パビリオンのデザインを担当した石上。106本のスチール製の細い柱が何層も積み重ねた平らな石の屋根を支えている。 Serpentine Pavilion 2019 Designed by Junya Ishigami, Serpentine Gallery, London (21 June – 6 October 2019), © Junya Ishigami + Associates, Photography © 2019 Iwan Baan 2019年のサーペンタインギャラリー・パビリオンのデザインを担当した石上。106本のスチール製の細い柱が何層も積み重ねた平らな石の屋根を支えている。 Serpentine Pavilion 2019 Designed by Junya Ishigami, Serpentine Gallery, London (21 June – 6 October 2019), © Junya Ishigami + Associates, Photography © 2019 Iwan Baan

2019年のサーペンタインギャラリー・パビリオンのデザインを担当した石上。106本のスチール製の細い柱が何層も積み重ねた平らな石の屋根を支えている。

Serpentine Pavilion 2019 Designed by Junya Ishigami, Serpentine Gallery, London (21 June – 6 October 2019), © Junya Ishigami + Associates, Photography © 2019 Iwan Baan

「サーペンタインの条件は、テンポラリーなパビリオンであり、かつ歴史のある土地であること。同時にパビリオンの購入者が、最終的にどこに建てるかわからないという2面性を持っています。それを踏まえ、価値観が大きな幅で繋がっていくようなものを作りたいと考えました。周辺のランドスケープの一部になる丘のような建築をイメージしたうえで、原始的な建築技術を参考にしています」。

 

「古い技法はある種の世界的な共通性があるものです。たとえばサーペンタイギャラリーに使われている石で葺いた屋根は、ヨーロッパにありアジアにもある。材料はその土地にあるものを大きく加工せずに使うのも特徴です。材料も技術も汎用性があり、自然素材だからランドスケープとして建築をつくることにも馴染みます」。石材を重ねていくだけの古い技法。その屋根を支える細い柱は現代技術でなければできないものだ。古い技術と新しい技術、伝統的であることと現代的であること、サイトスペシフィックであることと無国籍でユニバーサルであること。いろいろな価値が結び付いていく。


内部には細い柱が並ぶ。サーペンタイギャラリーは、ハイドパークとつながった公園であるケンジントンガーデンズにある。 Serpentine Pavilion 2019 Designed by Junya Ishigami, Serpentine Gallery, London (21 June – 6 October 2019), © Junya Ishigami + Associates, Photography © 2019 Iwan Baan  内部には細い柱が並ぶ。サーペンタイギャラリーは、ハイドパークとつながった公園であるケンジントンガーデンズにある。 Serpentine Pavilion 2019 Designed by Junya Ishigami, Serpentine Gallery, London (21 June – 6 October 2019), © Junya Ishigami + Associates, Photography © 2019 Iwan Baan 

内部には細い柱が並ぶ。サーペンタイギャラリーは、ハイドパークとつながった公園であるケンジントンガーデンズにある。

Serpentine Pavilion 2019 Designed by Junya Ishigami, Serpentine Gallery, London (21 June – 6 October 2019), © Junya Ishigami + Associates, Photography © 2019 Iwan Baan

「景色というのは抽象的な側面もあるから、何か違ったものを連想できるのが面白い。僕の中では丘のような石の屋根をスタディしながら、大きな黒い鳥をイメージしていました。石の一つひとつが羽毛のように見えて、細い柱は雨のようでもある。ロンドンの雨空を大きな黒い鳥が飛んでいるような(笑)」。緻密な構造計算で突き詰めた構築的な表現に、どこかファンタジーのような柔らかさをまとう。石上の建築がおおらかさを感じさせるのは、そんなところにもあるのかもしれない。

”古さ“を新築すること。「House & Restaurant」の挑戦

海外でのプロジェクトが多数進行する中、国内で今夏を目途に完成を目指しているのが「House & Restaurant」だ。オーナーからは以前にもレストランの内装を依頼されており、今回が2度目となる。「時間の経過を感じるような古さを感じるもの、ずっと残っていくものを」との依頼だった。それを実現させるためには、「建築の古さとは何か」を考察する必要がある。石上の定義はこうだ。新しい建築はすべて人の手によって作られる。そこから雨風に吹かれ経年変化していく中で遺跡や廃墟のようにランドスケープと混ざり合い、さらにはランドスケープに溶けてしまう。自然と人工物との中間的なものを作れば、建築としての形を保ちつつ古いものを作れるのではないか。


穴を掘削したところにコンクリートを流し込み、コンクリートの周りの土を取り除いていく。 Photogaraphy by © 2019 Yashiro Photo Office All rights reserved 穴を掘削したところにコンクリートを流し込み、コンクリートの周りの土を取り除いていく。 Photogaraphy by © 2019 Yashiro Photo Office All rights reserved

穴を掘削したところにコンクリートを流し込み、コンクリートの周りの土を取り除いていく。

Photogaraphy by © 2019 Yashiro Photo Office All rights reserved

「『中間的なもの』を作る方法として、穴を掘ってコンクリートを流し込み、周囲の土を掘りだすことに行きつきました。そうすれば完全に人がコントロールできるわけでもなく、土の状況や自然の状況に任せつつ建物を作ることができます。出来上がってくるものは、いつの時代のものとも判別できないものになるでしょう。古さがある種の新しさになるというか、いままで見たことのないような“古い”建築が出来上がってくることを期待しています」。

 

洞窟のような、ワインカーブのようなレストラン。高級レストランでありながら形式に縛られるものではなく、「食べることが楽しくなるような雰囲気」にしたいという。「食べ物は、その地方の景色や建物に合っているものだと感じます。そういう風に、この建物に触発されて料理が創作される。そうあるべきだと思っています」。

「House & Restaurant」はそこを訪れる人々にどんな新しい体験をもたらすのだろうか。

 

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石上純也 Junya Ishigami

建築家

1974年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。妹島和世建築設計事務所を経て、2004年に石上純也建築設計事務所設立。主なプロジェクトに、2008年神奈川工科大学KAIT工房(神奈川県)ほか。ロシア、中国など国内外でプロジェクトが進行している。主な展覧会に、2008年ヴェネチア・ビエンナーレ第11回国際建築展・日本館代表、2010年「建築のあたらしい大きさ」展(豊田市美術館)、2018年「石上純也 自由な建築」展(パリ・カルティエ現代美術財団)。また、2009年日本建築学会賞(作品)、2010年第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 金獅子賞、2010年毎日デザイン賞、2012年文化庁長官表彰 国際芸術部門など受賞多数。

Text by Junko Koshima
Photography by Yoshiaki Tsutsui

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