KCJ GROUP 株式会社 代表取締役社長兼CEO 住谷栄之資氏KCJ GROUP 株式会社 代表取締役社長兼CEO 住谷栄之資氏

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2018.1.13

日本のプレミアムに取り組む企業 
KCJ GROUP 株式会社 代表取締役社長兼CEO 住谷栄之資氏インタビュー

ピザ職人やパイロット、医師や銀行員など、こども達がさまざまな職業体験を通して社会の仕組みを学ぶことができるのが、職業・社会体験施設「キッザニア」。メキシコ発祥のこの施設を、2006年に日本に開業し、こども達が楽しみながら社会のしくみを学ぶ「エデュテインメント」というコンセプトを根付かせたのが、KCJ GROUP 株式会社 代表取締役社長兼CEO 住谷栄之資(えいのすけ)さんです。

 

こどもと日本の社会に与えるキッザニアの意味

「前職の株式会社WDIでは、カプリチョーザやトニー・ローマ、ハードロックカフェ、最近ではババ・ガンプ・シュリンプなど多くの海外レストランを日本に誘致し展開してきました。社長を60歳で退任後、知人からキッザニアを紹介されたのですが、話を聞いただけではピンとこなかったので視察のためメキシコへ。スポンサー企業が、自分たちの仕事をそのまま体験させていたわけですが、そもそも大人にとって“仕事”とは時には苦痛の種にもなり得るもの。それをこども達がとても楽しそうにやっているところに引きつけられました」
最終的には再度お孫さんとともにメキシコに訪れ、彼らが2日間に渡りキッザニアで楽しく過ごしたことで、その魅力を確信したそうです。

 

実は住谷さんの心を動かしたもう一つの理由、それは当時日本の世間を賑わせていた若者のニート増加という問題。「以前から若者の仕事に対する意欲の低下は感じていました。でも大人になってから教育しても限界がある。小さいうちから仕事の楽しさを知ると同時に、それは義務であり自立するためには自分で働いて食べていかなくてはいけないという社会の根本ルールを知るには、学校の教育だけでは難しいのではないかと漫然と思っていたんです。その意味からもこのキッザニアの取り組みは、それを解決しうるチャンスの一つだと感じました」

そしてもう一つ危惧したのは、日本のこどもが置かれている学歴社会のひずみでした。「小学校の時から勉強や点数で判断されて、勉強ができないと『わたしはダメなんだ』と感じてしまうのが、本当にかわいそうだなと思ってね。勉強はダメでも音楽もスポーツもあるし、手先が器用だから何かできるよと励ます人がいない。学歴社会の中では親もそうせざるを得ない。その子の”個”を活かすチャンスがないんですよね。」

 

それはグローバル化への足を引っ張ることでもあると感じていたそうです。「盛んに叫ばれる“グローバル”という視点でも同じこと。日本では相手の会社や肩書は覚えていても名前が出てこないことってよくありますよね。でも海外だと数年ぶりであってもお互いファーストネームを覚えています。それは会社の名前ではなく、個人の価値でつながっているから。ひとりひとり独立した意思を持って生きていく、それがグローバルの原点ではないかと思っています」

自分の可能性に気づき、自分に自信を持つ」そのことがこどもには必要だと、住谷さんは言います。その思いは、キッザニアを実際に開業し、訪れる日本のこども達の様子を目にし確信へと変わります。

 

「キッザニアにはこれだけのたくさんの職業があって、こども達も体験を重ねていくうちに、自分に得意なものがあることに気付いていきます。だから『僕は勉強はあんまりだけど、ハンバーガーをつくらせたら隣の子よりうまくできたよ』と感じてくれたら、それだけでもうキッザニアの目的は達成したと思っています。眼に見えないことなんだけど、その気づきだけでOKなんです。」

体験がこどもの大きな自信に

キッザニアの体験からは、実はこどもが勉強への意欲を高めるという副産物も。「職業体験を通して、学校の勉強は何のためにやっているのかをわかってくれると一番いい。例えばパイロットのフライトシミュレーターを体験して、飛行機の操縦はかなり難しそうだとこどもなりにわかります。すると、この仕事をするにはやっぱり勉強しなくちゃいけないんじゃないかと感じます。それがゲームではなく、リアルな仕事を体験させることの重要性なんです。保護者の方からも、こどもが勉強するようになったというお話をよく聞くんですよ」

日本独自の企画でこども達にチャンスを 日本独自の企画でこども達にチャンスを

パイロットのフライトシミュレーターを体験するこども

現在世界19ヶ国24ヶ所にあるキッザニアですが、日本では独自にさまざまな企画が行われています。

 

そのひとつが中学生対象の「ジュニア チャレンジ ジャパン」。職業体験のほか、人気があるのが、弁護士、アナウンサー、国会議員など、普段接することが少ない各界のスペシャリストと直接話ができる「ソーシャルパーティー」でした。「国会議員相手に政治の話をするなんて中学生にとっては難しいかなと思ったんですが、意外とそうじゃない。プロ相手にしっかり政治の話をしていました。機会をちゃんと作れば、いくらでもこども達は前向きになるんです」

交流企画「ソーシャルパーティー」の様子 交流企画「ソーシャルパーティー」の様子

交流企画「ソーシャルパーティー」の様子。1つの円テーブルに4~6名ぐらいの中学生が、様々な業界のソーシャルインストラクター1名を囲み、色々な話を聞くことができる。

またキッザニア(対象年齢3~15歳)を卒業した高校生を対象にしたのが「ハイスクール・インターンシップ」。シンガーポールのキッザニアで、スタッフのアシスタントとして1週間職業体験するものです。「日本のキッザニア体験からスタッフの役割もわかっているので、英語が苦手でコミュニケーションは身振り手振りでも、問題ないんです。言葉は二の次。例えばハンバーガーの作り方なら、東京でもやったことがあるから英語ができなくても教えられる。それが自信につながるんです。そうすると、今度は英語自体も先生に教えられるのではなく、自分なりの学び方をこどもが自分自身で考えるようになるんです」

 

学校の点数だけの基準だと、その基準に達していない、英語が完璧にできないから海外に行けないと思ってしまうお子さんもいるはずです。
「それはすごく高いハードルを作ってしまうこと。それよりもインターンシップのように実際に経験をすれば、仕事の中身が第一で、英語は単なるツールだということがわかるんです」それこそが「グローバル化の始まり」だと住谷さんは考えています。さらに自国の文化を知ることもグローバル化には重要と、つまみ細工や左官職人の体験など「匠のモノづくりフェア」などを通して、日本の優れた技術の体験も積極的に企画しています。

自分の可能性を知ることが生きる力に

ハンバーガーショップで職業体験をするこども達 ハンバーガーショップで職業体験をするこども達

ハンバーガーショップで職業体験をするこども達

キッザニアで住谷さんが大事にしているのは「答えをひとつにしない」ということ。
「ここに来てこども達がやりたい仕事もさまざまですし、何を感じたかもひとりひとり違うはず。だからこそ自分の方向性を自分自身で見つける。それが大事だと思います。そしてそれは後から変わってもいいんです。『昔はパイロットになりたかった…』なんていう大人はたくさんいますよね。最近は企業でも副業OKという流れも出てきています。自分の可能性を知ることで、大人になってからの生き方にも幅が出てくる気がしているんです。キッザニアでの体験がそんなヒントになればいいと思っています」

この日も館内でたくさんのこども達が、自分で選んだ仕事を目を輝かせながら体験していました。「こどもが自らの頭で判断し、やりたいことを選択できる。それがキッザニアの人気の秘訣かもしれません。普段はやっぱり親がああしろこうしろというでしょ。学校や塾も、旅行の行き先や洋服だって自分で決められることがない。でもキッザニアだけは、自分の好きなことをどんどんやっていいんです。そして、それは親にとってもこどもの新たな可能性を知るチャンスにもなるんです」

 

日本のこども達が自らの可能性に気づき、自信を持って生きる力を育んでいく。楽しみながらそのきっかけをつかむチャンスが、ここキッザニアにはあります。大人はこども達の力を信じて見守り、この体験をしたこども達が造る未来を楽しみにしたいと思います。

 

 

※この記事に記載されている内容、情報は公開当時のものとなります。

〈プロフィール〉

住谷栄之資

1943年和歌山県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、藤田観光株式会社に入社。ホテルおよび外食産業に従事する。1969年に大学時代の先輩に誘われ、株式会社WDIに経営参画。海外旅行・留学事業のほか、ケンタッキーフライドチキンのフランチャイズをはじめ、トニー・ローマ、ハードロックカフェ、カプリチョーザ、ウルフギャングス・ステーキハウスなど多くの外食産業の立ち上げにかかわる。2003年に社長を退任。2004年にKCJ GROUP 株式会社を創業し、代表取締役社長兼CEOに就任。2006年にキッザニアの海外初施設となる「キッザニア東京」をオープン。2009年には「キッザニア甲子園」もオープンした。
http://www.kidzania.jp/


インタビュー 島村美緒 文 牛丸由紀子

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